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個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「いつか読書する日」 2005

いつか読書する日

★★★★☆

 

あらすじ

 生まれ育った町で牛乳配達とスーパーのレジをしながら暮らす未婚の50歳の女には、心に秘め続けた愛があった。

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 田中裕子主演、岸部一徳、仁科亜希子ら出演。127分。

 

感想

 50歳の未婚の女性が主人公だ。冒頭では彼女が牛乳配達をする様子が描かれる。人の寝静まった早朝に、長崎の坂の多い町を牛乳瓶を抱えながら徒歩で駆け回り、一軒ずつ配達する大変な仕事だ。金のためとはいえ、キツいなと思っていたら、彼女がこの仕事に喜びを感じているようで驚いた。

 

 だが10代で大好きなこの町で生きていくと決めた彼女にとっては、町の人ひとりひとりと繋がっていると感じられることが幸せなのだろう。確かにこんな風に毎日同じ町の中を駆け回る仕事は、他には郵便配達や新聞配達など数えるほどしかない。しかし、何に幸せを感じるかなんて、本当に人それぞれなのだなと思い知らされる。

 

 

 彼女が配達する家の中には、高校時代に付き合うも予期せぬ出来事によって別れてしまった男もいる。彼は結婚して、今は病気で死期の迫った妻を看病しながら暮らしている。最初は町で二人がすれ違う様子が何度も描かれたので、互いの存在に気付いていないのかと思ったが、勿論そんなわけはなかった。生まれ育った町なのだから、家も消息も知らないはずがない。二人は互いの存在を強く意識しながらも、言葉を交わすことなく他人のままで生きている。

 

 物語はこの二人の微妙な関係を中心に、その周辺の人物たちのエピソードが綴られていく。中でも男と病身の妻の物語は、ベタではあるが切なかった。夫婦は妻の死期が近いことを受け入れた上で、その日が来るまでを淡々と生きている。もはや「きっと治るから」などと励ますことすら出来ないなんて悲し過ぎる。だが生きられる限りは生きるしかない。

 

 二人の関係を知った妻の遺言もあり、主人公と男の密かな恋は成就する。50歳で長年の恋が叶うなんて夢のあるいい話だ。とはいえ、日本各地で行われている同窓会の夜には頻繁に起きているのかもしれないが。

 

 他の登場人物たちのエピソードも、人に歴史ありと思わせるものだった。人それぞれに色んな過去があり、色んな生き方がある。そして人生は何が起きるか分からない。痴ほう症の夫を介護する老婦人の「長生きしてね。色んなことが分かってくるから。面白いから」という言葉は重く心に響いた。

 

 主人公の恋は呆気なく終わってしまったが、彼女にとってそれは人生に訪れた予期せぬ夢のような出来事だった。起きないはずのことが起きたのだから、むしろ幸運だったといえるのかもしれない。まさに「人生は面白い」だ。その思い出を胸に、当初の予定通り、買い貯めてある本棚の本を読みながら、主人公は残りの人生を過ごすのだろう。長生きも悪くない、と思えてくる映画だ。

 

スタッフ/キャスト

監督 緒方明

 

脚本 青木研次

 

出演 田中裕子/岸部一徳/仁科亜季子/渡辺美佐子/上田耕一/杉本哲太/鈴木砂羽/馬渕英里何/山田辰夫/柳ユーレイ/堀部圭亮/江口のりこ/諏訪太朗

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音楽 池辺晋一郎

 

いつか読書する日 - Wikipedia

 

 

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