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個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「風の歌が聴きたい」 1998

風の歌が聴きたい [レンタル落ち]

★★★★☆

 

あらすじ

 出産間近の妻を残してライフワークのトライアスロン大会に参加した聴覚障碍を持つ男は、レース中に夫婦のこれまでを振り返る。161分。

 

感想

 聴覚障碍者同士の夫婦の物語で、全編に字幕が付いている。最初は聴覚障碍者も楽しめるような補助的な役割かと思っていたのだが、それ以外にも無声映画的に使われたり、情報を付加したりと色んな役割を担っていて興味深かった。

 

 例えば手紙であれば通常その内容を知らせるために、声に出して読んだり、ナレーションを付けたり、文章自体を映し出したりするのだが、この映画では字幕で済ませてしまっている。そしてこれが常時字幕が出ている状態の中で行われるので、全然違和感がなく、上手い演出だ。字幕を活用した表現を行なって、それがないと成立しない映画に仕立てている。

 

 

 障碍を抱えた主人公が、妻と文通で知り合った中学時代から、結婚して出産を控えた現在に至るまでの歴史を振り返る。高校時代はタバコを吸って停学になったり、就職してからはディスコに通ったりと、よくある普通の若者として主人公が描かれており、好感が持てる。日本の映画だと彼らをすぐに純粋な天使のように描いてしまいがちだ。

 

 そして彼らを見守る両親の姿は、その心境が慮れて泣けるものがある。心配や不安でいっぱいのはずなのに、それでも叱咤激励しながら彼らを社会に送り出そうとしている。立派過ぎて逆に両親の方が美化されているのではないかと思ってしまうが、でもこれくらいの強い態度でいなければ、子供を自立させることなど出来ないのかもしれない。

 

 そんな両親のもとで育ったからか、主人公も彼女も人生にとても前向きだ。障碍があるからとあきらめず、とにかく行動していく。見ているこちらまで、見習わなければと、なんだか勇気が出てくる。ただ主人公の料理人になる夢がさらっと立ち消えになっていたり、彼女の就職活動が難航し、結局どうなったかは描かれていなかったりと、厳しい現実も示されており、少し暗い気持ちになったりもした。それでも彼らは明るさを失わない。

 

 主人公たちがとても爽やかなカップルとして描かれており、穏やかで優しい気持ちになれる映画だ。3時間近い上映時間も全く気にならない。唯一気になったところは、ヒロインの中江有里が美人過ぎることくらいか。最初はそうでもなかったが、見ているうちに彼女の美しさが際立ってきた。これでは映画の邪魔になってしまうのではと思ってしまうほどだった。もちろん、全然ありなのだが。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本/*音楽

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*學草太郎 名義


出演 天宮良/中江有里/勝野洋/入江若葉/石橋蓮司/左時枝/河原さぶ/峰岸徹/高橋かおり/岸部一徳/絵沢萠子/根岸季衣/嶋田久作/オスマン・サンコン/松金よね子/田口トモロヲ/ベンガル/村田雄浩/高嶋政宏

 

風の歌が聴きたい - Wikipedia

 

 

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