★★★★☆
あらすじ
年老いた母親の世話をしながら暮らし、コメディアンを目指す大道芸人の男は、同僚から自衛のためと拳銃を手渡される。
「バットマン」シリーズのヴィラン、ジョーカーを描いた作品。ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞、アカデミー賞主演男優賞、作曲賞。
感想
バットマンの有名な悪役、ジョーカーを描いた作品だ。いかにも漫画的なキャラクターであるピエロの格好をした風変わりな男を、現実世界に違和感なく存在させようと試みている。彼がなぜピエロの格好をしているのか、なぜ高らかに笑うのか、そのバックグラウンドが丁寧に描写されていく。
主人公は心を病んだ大道芸人で、年老いた母親の世話をしながら暮らしている。社会の片隅でひっそりと生きる男だが、いつかコメディアンとして活躍することを夢見ている。人気テレビ番組の司会者であるコメディアンに憧れており、孤独で病的な男が人気芸人に憧れる構図はまるで映画「キング・オブ・コメディ」のようだった。
この憧れの芸人をその映画で主演していたロバート・デ・ニーロが演じているのだから、確実に意識していると考えていいだろう。まるであの映画の主人公が、そのまま人気司会者として活躍し続けていたかのような気になってくるから面白い。
主人公は忘れていた自身の過去を知り、心の病の原因を知るようになる。しかし、これは辛いことではないと自分に言い聞かせるために敢えて笑っていたなんて、痛ましすぎる。まさにどんな時でも笑い続けるピエロのようだ。だが彼は拳銃を手に入れたことがきっかけで、自己防衛のためではなく、相手を攻撃するために笑うことを覚える。そして、ある意味で解き放たれてしまう。
最終的に、主人公がジョーカーの出で立ちで皆の前に現れても全く違和感を感じないようになっており、映画の試みは成功している。また彼に乗じて暴れる大衆は、著名人の尻馬に乗って悪意剥き出しで嘲笑や冷笑を繰り広げるSNSの世界を思い起こさせて、痛烈な社会風刺にもなっている。どこにも瑕疵が見つからないような、ほぼ完ぺきと言ってもいいような仕上がりだ。主人公を演じるホアキン・フェニックスの演技も凄みがあって素晴らしい。時間を忘れてじっくりと堪能できる作品だ。
スタッフ/キャスト
監督/脚本/製作 トッド・フィリップス
脚本 スコット・シルヴァー
製作 ブラッドリー・クーパー/エマ・ティリンガー・コスコフ
出演 ホアキン・フェニックス/ザジー・ビーツ/フランセス・コンロイ/ブレット・カレン/ビル・キャンプ/シェー・ウィガム/グレン・フレシュラー/リー・ギル/ブライアン・タイリー・ヘンリー
音楽 ヒドゥル・グドナドッティル