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「ラストレター」 2020

ラストレター

★★★★☆

 

あらすじ

 姉の同窓会に彼女が亡くなったことを伝えるために参加した妹は、皆に姉だと勘違いされてしまい、訂正できないまま初恋の相手に話しかけられる。

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感想

 自分の初恋相手で姉に思いを寄せていた男に、姉だと思われながら同窓会で再会した女が主人公だ。今なら当然スマホでやり取りが始まる状況だが、自然と手紙でやり取りする流れとなっていく。

 

 嫉妬した夫にスマホを壊されたことが発端となり、姉のフリをしている後ろめたさや既婚者としての自制心がありつつも、せっかくのチャンスを無駄にはしたくない想いが手紙という形式を選択させた。スマホなんて壊れたらすぐ買い直すし、データの復旧なんて簡単だろうと思わないこともないが、説得力のある展開だ。

 

 

 この手紙のやり取りに、主人公と姉の娘たちも参戦する流れになるのが面白い。これも、両者の手紙を受け取る初恋相手が文字や文面の違いで気付くだろうと思わなくもないが、このあたりはファンタジー感でうまく誤魔化している。手紙のやり取りを通して、主人公たちの高校時代の様子が明らかになっていく。主人公と姉の少女時代を、それぞれの娘役の森七菜と広瀬すずが演じているので分かりやすい。

 

 文通する彼らの姿を見ていたら、「手紙」は良いなと再認識させれられる。相手のことを思い浮かべながら手紙を書く時間やそれをポストに投函する瞬間、待ちわびていた手紙が届いていないかとポストの中をのぞき込む瞬間やそれを見つけた時の喜びなど、手紙に関するいちいちに情緒がある。今はスマホで短文のやり取りを瞬間的に行うだけだ。便利ではあるが趣はない。

 

 考えてみれば今やポストに投函されるものなんて、ポエム付きのマンション販売のチラシか、役所からの納税などの各種振込用紙くらいなものだ。やって来る郵便配達員にドキドキすることはないし、ポストの中を確認するワクワクもない。だからと言って今さらすべてを手紙に戻そうとは思わないが、たまには敢えて手紙のやり取りをやってみるのも面白そうだ。久しく味わったことのない感情を味わえるかもしれない。それを後から読み返したりするのもきっと味わい深いだろう。

 

 初恋相手が主人公や娘たちの前に現れて、物語は佳境に向かう。岩井俊二監督得意の、在りし日の初々しい思い出がみずみずしく描き出されていく。ノスタルジックで美しい映像世界を嫌味なく作り出せるのは相変わらず素晴らしい。並の監督なら嘘っぽくなってしまいそうだ。ちゃんときれいな役者を揃える配役も効いている。

 

 それぞれがしばし過去を振り返り、再び前を向いて歩いていく活力を手にする物語だ。思い出は力になる。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本/編集 岩井俊二

 

原作 ラストレター (文春文庫)

 

企画/プロデュース 川村元気

 

出演

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広瀬すず/庵野秀明/森七菜/小室等/水越けいこ/木内みどり/鈴木慶一/豊川悦司/中山美穂/神木隆之介/福山雅治

 

音楽 小林武史

 

ラストレター

ラストレター (映画) - Wikipedia

 

 

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