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個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「くたばれインターネット」 2016

くたばれインターネット (ele-king books)

★★★☆☆

 

あらすじ

 とある講演の内容がネットにアップされた事により、炎上してしまった中年の女性漫画家。

 

感想

 ネットでの炎上を扱った物語ということで、どのように炎上が起き、それに対してどのような対処をして鎮めていったのかというような事が描かれていくのかと思ったのだが、そうでもなかった。当事者はそれなりに気にはしているが、心を痛めるほどではないという程度。炎上に対してどのように行動したかは素っ気なく描かれ、その代わりに主人公や周囲の人物、そしてネットに関わる話などがつらつらと綴られていく

 

 特徴としては、なかなか話が前に進まないというという事。何かにつけて話の腰を折るかのように脱線していく。何気なく出てきたワードに付随する知識や見解が横道にそれて滔滔と述べられていき、その中には皮肉が効いたものもあって面白かったりはするのだが、回りくどさに辟易とすることもあった。名前が挙がる人物たちが白人かどうかを伝えるために、皮膚組織中に真性メラニンがみつかるかかどうかをいちいち報告したり。

 

 

 きっとネットの炎上を描きたかったというわけではなくて、便宜上そういったストーリーをこしらえただけで、それにかこつけて世の中のあれこれについてのよもやま話をしたかったという事なのだろう。

 

 そんな話の中で印象的だったのは、ネットなんて広告のために存在するというもの。確かに、ネットが普及しはじめた頃は人類の崇高な理念を実現させる画期的な発明のような捉え方がされていたのに、そのIT界の巨人Googleの儲けは広告収入が占めているということを知った時は、え、広告なの?と思ったものだ。結局は、広告料で稼いでいるテレビや雑誌と同じでしかない。

 

 だがテレビや雑誌と違うのは、彼らがクリエイターにギャラを渡してコンテンツを作っているのに対して、ツイッターやインスタグラムといったSNS企業はそんな事をする必要はないという事だ。ユーザーが投稿という形で、無償でどんどんとコンテンツを提供してくれる。ネット企業はそんなコンテンツの間に広告を設置するだけで大儲けができるというわけだ。

 

 だから彼らには崇高な理念もないし、差別や偏見もどうでもよくて、中身が何であれ、人々がヒートアップしてどんどんとコンテンツを提供してくれればそれでいい。そう考えると昨今のツイッタージャパンの不審な挙動もそういう事なのかもな、と納得してしまった。日本では、SNS企業に対するテレビ局のような偏向に対する規制もないのでやりたい放題だ。

 

 それから、インターネットは元々は軍事技術として開発されたので、その開発者たち、つまり白人で男性の思想が色濃く反映されている、というのも何となく理解できる気がする。世界中で緩やかではあるが確実に前進していた人種差別の撤廃や男女平等といった動きに対して、ここ最近ネットを中心として大きな反動が起きているようにも感じる。これは滅びつつある白人男性(と名誉白人と名誉男性)が優位な社会を立て直そうと、必死に抵抗する動きと言えるのかもしれない。

 

 その他では、ある登場人物が性転換している話とか、子どもがいる話とかが、話のついでのようにさらっと出てくるのがとても印象的だった。効果を狙って敢えてやっているのかもしれないが、もはやそういうことをわざわざ最初に言及しておく必要はない、という時代なのかもな、と少し感慨深くなってしまった。

 

 炎上事件が描かれると思ったのに、それよりもそれにまつわる周辺の出来事がだらだらと描かれるこの物語は、調べ物をするはずだったのにだらだらとSNSに興じてしまっている感覚と似ているかもしれない。おそらく著者はこれを意図的にやっている。

 

 このパラレルワールドにおいてネットが人々にもたらす効用というのは、まったきのまごうことなき、掛け値なしの幼児退行なのである。心が傷つくと人々はネットに繋がりこぞって不平を口にする。彼らはその相手を”ママ”と呼ぶ。だからネットを使うことは”ママに逃げ込む”と称される。

p256

 

 ネット企業が広告収入で儲けるために、様々なものを犠牲にしてせっせと無償でコンテンツを提供し続けるのは馬鹿らしいよね、ということだろう。それにネット企業は現実世界に悪影響を及ぼしているかもしれない。まさにタイトルの通り「くたばれインターネット」といったところだ。

 

 最後に、「tumblr」や「Pinterest」が翻訳で変なカタカナ語になっているのが気持ち悪かった。日本でもそれなりの知名度があると思われるので、ちゃんと一般的な「ピンタレスト」「タンブラー」というカタカナ語にして欲しかった。そのほかにもちょいちょい違和感のある言葉が出てきて、本編と関係なく気になってしまった。

Designing Tumblr デザイニング・タンブラー

Designing Tumblr デザイニング・タンブラー

  • 発売日: 2012/09/11
  • メディア: ペーパーバック
 

 

著者

ジャレット・コベック 

 

翻訳  浅倉卓弥

 

くたばれインターネット (ele-king books)

くたばれインターネット (ele-king books)

 

 

 

登場する作品

大統領の陰謀 (字幕版)

ジュリア [AmazonDVDコレクション]

ガラスの鍵 (光文社古典新訳文庫)

マルタの鷹〔改訳決定版〕 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

Omaha the Cat Dancer (Omaha the Cat Dancer, 1)(オマハ・ザ・キャット・ダンサー」

LEAN IN(リーン・イン) 女性、仕事、リーダーへの意欲 (日本経済新聞出版)

「疑問の世代」 ゼイディー・スミス

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アイアンマン 2 (字幕版)

キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー (字幕版)

マイティ・ソー (字幕版)

アベンジャーズ (字幕版)

アイアンマン3 (字幕版)

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千一夜物語 13冊セット (岩波文庫)

アイド・ラザー・ゴー・ブラインド

Lady Margaret and Sweet William(マーガレットとウィリアム)」

Long Black Limousine(長い黒のリムジン)」

I'm So Depressed(アイム・ソー・ディプレスト)」

異星の客 (創元SF文庫)

ホビットの冒険 上 (岩波少年文庫)

新版 指輪物語〈1〉旅の仲間 上1 (評論社文庫)

エイリアンバスターズ (字幕版)

南の島のリゾート式恋愛セラピー (字幕版)

インターンシップ (字幕版)

人生、サイコー!(字幕版)

コレクションズ (上) (ハヤカワepi文庫)

ユリシーズ 1 (集英社文庫)

ニューロマンサー (ハヤカワ文庫SF)

スノウ・クラッシュ〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)

クリプトノミコン〈1〉チューリング (ハヤカワ文庫SF)

第七の予言

魔力の刻印

Infinite Jest (English Edition)(終わらない冗談)」

肩をすくめるアトラス 第一部

ザ・フェイム(初回生産限定特別価格)

ボーン・ディス・ウェイ(期間限定盤)

アートポップ

純粋理性批判 1 (光文社古典新訳文庫)

クラッシュ (創元SF文庫)

残虐行為展覧会

スーパー・カンヌ

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フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ〔上〕

血みどろ臓物ハイスクール (河出文庫)

日陰者ジュード(上)

New Gods by Jack Kirby(ニュー・ゴッド)」

Homeland (English Edition)(ホームランド)」

シャイニング (字幕版)

Commoners Crown(コモナーズ・クラウン)」

マウス―アウシュヴィッツを生きのびた父親の物語

水源―The Fountainhead

摩天楼 [DVD]

Wild Dog (1987) #1 (English Edition)(ワイルド・ドッグ)」

「A Bouquet of Lovers(恋人たちに花束を)」 モーニング・グローリー・ゼル・ラベンハート

【合本版】ドラゴンランス 全25巻

My Black Mama 1 & 2(マイ・ブラック・ママ)」 

My Black Mama - Part I(マイ・ブラック・ママ・パート1)」

My Black Mama - Part Ii(マイ・ブラック・ママ・パート2)」

セント・ジェームス病院(セント・ジェームス病院のブルース)」

Unfortunate Rake(不運なレイク)」

Death Letter Blues (Album Version)(死の手紙のブルース)」

Vertigo Visions - The Phantom Stranger (1993) #1 (English Edition)(目眩)」

WATCHMEN 日本語版 (電撃コミックス)

Artaud Anthology(アルトー選集)」

【新訳】吠える その他の詩 (SWITCH LIBRARY)

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Superman: The Dailies, 1939-1940(スーパーマン)」

老人と海 (光文社古典新訳文庫)

ニーチェの馬 (字幕版)

ブラード・ラインズ~今夜はヘイ・ヘイ・ヘイ♪ [feat. T.I. & ファレル・ウィリアムス] [Explicit]

ティモシー・アーチャーの転生〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫SF)

ヴィレット(上) (白水Uブックス)

時計じかけのオレンジ 完全版 (ハヤカワepi文庫 ハ 1-1)

 

 

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