★★★☆☆
あらすじ
風変わりな母親から風変わりな経緯で生まれた主人公、ガープの人生が語られる。
感想
主人公ガープの数奇な人生が語られていく。だがまずは彼の母親が色々とすごい。結婚はしたくないが子供は欲しいと計画的に妊娠して主人公を産み、戦時中のどさくさを利用して、まだ世間の目が厳しかった未婚の母であることを巧妙に誤魔化し、母子で生きていけるだけの環境をしたたかに確保してしまう。そして息子が何を学ぶべきか判断するためにまず自分が学び、息子が卒業して海外に行くとなったら当然のように一緒に付いていく。その後の人生も独特だ。言動がユニークで面白いが、そんな母親だからこそ主人公もまた個性的な人物となったのだろう。
主人公の人生にはいくつもの奇妙な出来事が起きる。その中でも強烈なのは主人公一家を巻き込む交通事故だ。悲劇としか言いようのない大惨事なのだが、その詳細を見ていくとどこか可笑しみを感じてしまう部分がある。可笑しいというか、よくもそんなタイミングで事故が起きてしまったなと感心してしまう感じだろうか。悲劇の中に喜劇が紛れ込んできてしまうのが世の常だ。
この小説は1970年代に書かれたもので、女性解放運動をする人々やそれに反発する人々などが登場し、主人公のエピソードも女性にまつわるものがほとんだ。物騒な出来事も多いが、これらは当時の世相を反映しているのだろう。時代を感じる。
その本との出逢いから、毎週自分がなぐられたり、子供が痛い目に遭ったりしているのは、もしかしたら、夫が悪いのではなかろうかと考えるようになった。それまでは、それは自分のせいであり、それが”人生の運命”だと考えていたのだった。
単行本(サンリオ)下巻 p296
主人公の母親は、出版した自伝が話題を呼び、フェミニストの代表のような扱いを受けるようになるが、その彼女の元にやって来た女性のこの考え方はDV被害者の典型的なもので興味深い。今でもDVに限らず、虐げられている人たちがすべて自分が悪いのだとじっと我慢してしまうことは多い。
しかも自分が我慢するだけでなく、他人にも同じように我慢を強いる人までいるから厄介だ。悪いのは自分じゃなかったと気づいて声を上げ始めた人たちに、同じ立場の人がこっちは我慢しているのだ、甘えるな、自己責任だ、と押さえつけようとする地獄のような世界が存在する。虐げる側はただそれを半笑いで見ていればいいだけだから天国だが。
それぞれのエピソードはそれなりに面白くはあるが、正直あまり乗れない自分がいた。物語の中で触れられているように、これはフィクションに関するフィクションなのだろう。あまりにフィクションすぎるとスッと冷めてしまうところがある。
著者
ジョン・アーヴィング
登場する作品
「秘密の参加者(秘密の共有者)」 「シャドウ・ライン/秘密の共有者 (コンラッド作品選集)」所収
「哀れなバイオリン弾き(ウィーンの辻音楽師 (岩波文庫 赤 423-2))」
「随想録(マルクス・アウレーリウス 自省録 (岩波文庫))」
「永遠の良人 (1955年) (新潮文庫)(永遠の夫)」
「巨人対策」 ウォレス・スティーヴンズ
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