★★★★☆
あらすじ
大阪船場の商家で当主となった男は、女系家族の中で監視されながらも女遊びを繰り返す。104分。
感想
しばらく婿養子が続き、女が強い女系家族の商家を舞台に、当主となった若い男の放蕩の人生を描く。久々の直系の男子で、当主となった主人公は、しきたりだの慣習だの何から何まで祖母と母の監督下で暮らしている。それでも女遊びは普通にやっているのがすごいが、これすらも商家のルールに定められている。
得てしてルールというものは厳格で、対象が聖人君子であることを前提にしたものが多いが、こんな風に金も権力もあれば禁止したところでどうせ隠れて女遊びするよねと、それすらも織り込んでルールを作ってしまっているのは面白い。女たちも当主がルールの範囲内で女遊びをしている限りは割り切って不問に付している。
これならグレーゾーンをめぐる不毛な攻防戦だとか、細かい規則が増えていくだけのイタチごっこのルール改正も不要なので合理的だ。実利を重んじる商売人らしい現実主義だ。政治の世界も裏金はいくらまでなら良し、ただし官房機密費に手を付けたら死刑、とかにすればいいのかもしれない。とはいえ、そこまで政治家を甘やかさなければならない必要は何もないのだが。
女たちの監視の中では、主人公の結婚相手が気に入らず、跡取りの男児を産んだらすぐに別れさせたのが怖かった。その結婚相手を選んだのは、彼女たち自身だったにもかかわらずだ。さらには万が一婿養子を迎える時に備えて、当主の娘を産ませようと自分たちが気に入った若い女に妾になるよう仕向けたりもする。家を中心に物事を考えると、何かと歪で気味悪いことをすることになってしまいがちだ。
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だが女たちにしてみれば、家を無事に存続させることだけが自身の安泰を保証するものなので、必死になるのも仕方がないのかもしれない。男の世界である商売には手を出さない以上、それ以外をしっかり見張るのが彼女たちの出来ることだ。政治の世界でも、国民がちゃんと監視していないと政治家がやりたい放題やって国が衰退してしまうのと同じだ。
女たちの言いなりの主人公は、何もできないバカ息子なのかと思ったら、案外しっかりと商家を切り盛りしていて驚いた。変なしきたりばかりが強調されていたが、商家には代々受け継がれてきた一流の商売人になるためのマニュアルやルールもあって、それもちゃんと叩き込まれていたのだろう。
女遊びの中で得たヒントを商売に活かしたりもしていて興味深い。ちなみにタイトルの「ぼんち」には下記のような意味があるらしい。
放蕩を重ねても、帳尻の合った遊び方をするのが大阪の“ぼんち” 。
くそ真面目に仕事に打ち込むだけでなく、稼いだ金でちゃんと遊び、人生を謳歌している感じがして悪くない生き方かもしれない。もちろん、誰も悲しませない現代型の放蕩でないといけいないが。
余談だがお菓子の「ぼんち揚げ」の「ぼんち」もここから来ているそうだ。
管理しようとする女たちの監視をのらりくらりとかわしながら、マイペースで我が道を行く主人公を市川雷蔵が好演している。彼と関係を持つ妾たちとのそれぞれのやり取りは見ごたえがあった。彼女たちもたくましい。特に終盤の、解き放たれたようなあっけらかんとした女たちの入浴シーンにはグッとくるものがあった。
戦中や戦後の厳しい時代も生き抜いた主人公の、頼りなさそうに見えてしっかりと芯のある強さに心打たれる。しみじみとした余韻が残る映画だ。
スタッフ/キャスト
監督/脚本 市川崑
脚本 和田夏十
原作 ぼんち(新潮文庫)
出演 市川雷蔵/若尾文子/越路吹雪/山田五十鈴/草笛光子/中村玉緒/船越英二/京マチ子/中村鴈治郎/北林谷栄/菅井一郎/浜村純
音楽 芥川也寸志
撮影 宮川一夫