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「きみの鳥はうたえる」 1982

きみの鳥はうたえる (河出文庫)

★★★★☆

 

あらすじ

 友人と共同生活を送る主人公は、ある女性と親しくなり、やがて三人で過ごす事が多くなっていく。芥川賞候補作になった表題作と短編「草の響き」を収録。

 

感想

 表題作は主人公とその恋人、そして友人の三人の関係を描いた物語。主人公は、友人が恋人に気があることに勘付いているのに、特に何をするわけでもない。また恋人にも注意を促すわけでもなく、逆に二人が仲良くなっていくのを喜んでさえいる。主人公にしてみれば、恋人と友人が仲良くなって三人で過ごせるのは楽しいことだし、万が一、二人がそれ以上の関係になったとしても、それは本人たちが決めたことなのだから、自分にはどうすることも出来ない、という割り切りのようなものがあったのだろう。

 

 それに彼ら三人がどことなく、どうせなるようにしかならないだろう、とでもいうような、宙ぶらりんな気持ちを抱えて気ままに生きているように見える。気分が乗らなければ無断欠勤するし、金がなければ誰かに借りてそのまま飲み歩いたりもする。主人公と恋人の関係も、「恋人」と呼べるほど強固なものは感じられなかった。なんとなく一緒になっただけで、いつ一緒じゃなくなっても不思議ではない雰囲気がある。

 

 

 そんな奇妙な関係を描きながら、ぼんやりとした感じで物語が終わっていくのかと思っていたので、最後に結構な事件が突然起きた時は意外な気がした。今まで適当に生きてきた報いというか、やるべきことをやって来なかったツケが回ってきたというべきか。いつまでも今のままではいられない、覚悟を決めて前に進まなければいけないのだ、ということを暗示しているかのようだった。

 

 もう一編の「草の輝き」は、精神を病んだ主人公が、医者に勧められて毎夜走る姿を描いた物語。どこか取り憑かれたように走る主人公の心情が綴られており、いわばランニング小説のような趣がある。そんな主人公と、ランニングの途中でよく見かける暴走族の若者たちの間に、ちょっとした交流が生まれる。少し驚く展開は先に読めてしまったが、こんな風にふとしたきっかけで互いの人生が交わることはあるが、それでもお互いにただやるべきことをやり続けるだけさ、と決意を新たにする主人公の姿に、心強いものを感じた。

 

著者

佐藤泰志

 

きみの鳥はうたえる - Wikipedia

 

 

登場する作品

フロント・ページ [DVD]

アメリカン・グラフィティ (字幕版)

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映画化作品

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小説タイトルの元となった曲

 

 

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