★★★★★
あらすじ
広島尾道に住む老年の夫婦が、東京で暮らす子供たちを訪ねる。
感想
夫婦の空気感がいい。どんな接し方をされても穏やかに対応する。相手に嫌な気分を与えないように気遣っている。そんな両親を決して両手を広げて歓迎するわけではない子供たち。確かに1日ぐらいなら喜んで迎えられるが、いつまでいるか分からないとなると、それぞれ仕事もあるし、常に対応できるわけではない。特に杉村春子演じる長女の本音をつい口に出してしまう憎たらしさ。
だが原節子演じる女が義理の妹に語ったように、生きていくうちに優先順位は常に変化し続ける。親だったり、家庭だったり、仕事だったり。その中のどれかの立場で定点的にその変化を見ていると寂しく思うこともあるはずだ。
それからそれぞれが相手によって色々と話す内容が変わることが面白い。決して八方美人的に相手に合わせて都合よくしゃべるというわけではなく、相手によって全てを話したり、その一部しか話さなかったり、言葉を濁してしまったりする。
どこか冷淡な子供たちの中で唯一健気だったのが、原節子演じる戦死した子供の妻だ。そんな彼女が最後に義理の父に対して本心をさらけ出すシーンは観ていてとてもドキドキした。結構すごいことを言う。そしてそれに言葉を返す笠智衆の穏やかさにもなぜか心を打たれてしまう。
心地よいリズムで物語が進み、何がどうだからいいとはなかなか説明し難いのだが、見終わった後いつまでも余韻が残るようないい映画だった。
そして、なぜだか夫婦の団扇の使い方も凄い印象に残った。あれもこの映画に何らかのリズムのような効果を与えているはずだ。
スタッフ/キャスト
監督/脚本
脚本 野田高梧
出演
東山千栄子/原節子/杉村春子/山村聡/香川京子/三宅邦子/東野英治郎/中村伸郎/大坂志郎/十朱久雄
撮影 厚田雄春
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