★★★★☆
あらすじ
福島・磐梯山麓の小さな町にある警察署の日常。
感想
田舎町の警察署で日々起こるドラマが描かれる。冒頭の結婚式に向かうおじさんが、目出たいからとバスを運転するドライバーに酒を勧めるシーンに驚かされ、そしてそれを飲んでしまうドライバーにさらに驚かされてしまうが、終始いかにも田舎らしい、のんびりとした雰囲気で物語が繰り広げられていく。
ただそこで日々起きる事件は、万引きに食い逃げから人身売買・捨て子まで、多岐にわたっている。それらの背後にはすべて貧困があることがありありと分かるので、見ているだけで切なさが込み上げてくる。
そんな犯人に対して、警察官たちはとても穏やかに対応する。声を荒げることもなく、基本的には常に淡々とした態度だ。彼らも犯人たちが止むに止まれぬ事情があることを察しているのだろう。怒っても仕方ないよね、みたいな雰囲気があった。
これは皆が貧しかった時代を知っているからこその空気感なのかもしれない。たまたま彼らはそこから抜け出せたが、今も抜け出せずにいる人たちがどんな苦しい暮らしをしているのか、皆よく分かっている。だから貧しさゆえに罪を犯してしまった人たちに対して、思いやりの気持ちを持てるのだろう。
万引きされたら誰だって、犯人に何か非難の言葉のひとつでも浴びせたくなりそうなものだが、被害に遭った店主が何も言わず、盗られたものを取り戻したらそそくさと帰っていったシーンは妙に印象に残った。まったく自分に故意に悪意が向けられたとは思っておらず、ただ運悪く自然災害に遭遇してしまったようなものだと認識しているみたいだった。
警察官をはじめ町の人々の思いやりや助け合いの心が、本来は悲しいはずのエピソードをあたたかく包み込んでいる。主演の森繁久彌の人の良さそうな、のんびりとした態度は、そんな映画のテーマを体現しているかのようだった。
他の署員たちも皆個性豊かでそれぞれに見せ場がある。中でも署長は、最初は声が大きいだけのガサツで嫌な奴かと思っていたのに、消防車を勝手に使われるシーンなどでは意外と面白いリアクションで笑わせてくれたりして、なんだか好きになってしまった。
終盤の捨て子を巡る一連の愁嘆場は、泣かせようと急に大げさになり興醒めしてしまったが、ラストは並行して進行していたいくつかのエピソードをうまくまとめ上げている。貧しくてもいつかは豊かになれると、皆が明るく希望を持てた時代の人情喜劇だ。
逆に豊かさを失い貧しくなっていく時代には、人々は他人に対してどんな態度を取るのだろうか。思いやりを持って接することは出来るのだろうか?などと、色々と考えてしまった。
スタッフ/キャスト
監督 久松静児
原作 警察日記 (1955年)
出演 森繁久彌/三國連太郎/二木てるみ/岩崎加根子/三島雅夫/十朱久雄/東野英治郎/宍戸錠/殿山泰司/杉村春子/沢村貞子/千石規子/*三木のり平/左卜全/高品格
*未出演
音楽 團伊玖磨
撮影 姫田真佐久
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