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「決戦は日曜日」 2022

決戦は日曜日

★★★☆☆

 

あらすじ

 老年の国会議員の私設秘書を長年務めてきた男は、議員が倒れて後継者として立候補することになったその娘をサポートし、共に選挙を戦うことになる。

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感想

 選挙を舞台にしたコメディ映画だ。立候補者がまともに漢字を読めなかったり、ポリコレ的失言をしたり、敢えて犬笛を吹いたり、秘書にパワハラしたりする。秘書も議員に濡れ衣を着せられたり、隠し撮り動画で告発したりする。そして、そんな彼らの元にはアクセス数稼ぎの迷惑なユーチューバーがやってくる。

 

 今の政治にまつわる諸問題を幅広く取り上げていて感心するが、正直、現実がもっと酷いので全然笑えない。昔もこんな議員はいたがごく一部だったし、すぐに退場していったのでまだ笑うことが出来た。だが今はこんな議員たちが大多数で、責任も取ることなくいつまでもふんぞり返って居座っている。

参院政倫審29人全員が「出席拒否」 “裏金問題”での追加審査要求に応じず(FNNプライムオンライン(フジテレビ系)) - Yahoo!ニュース

 

 この映画では、常にゆるい空気が漂っているのが印象的だ。選挙期間中にもかかわらず熱気はなく、秘書たちは流れ作業的に業務をこなすだけ、立候補者はただ皆の指示に従うだけ、支援者や地方議員たちはただ周辺で駄弁っているだけだ。トラブルやスキャンダルが起きても築き上げてきたマニュアル通りに動くだけで危機感は全くない。

 

 しかも、誰も政策の話を一切する気配がないからすごい。もはや候補者すらも含めた選挙に関わる全ての人が、惰性で動く大きな機関の歯車にしか過ぎないかのようだ。そこには誰の意志も介在していないかのように見える。こんな風に思考停止して、長年同じことをただくり返しているだけなのだから停滞するのも当然だ。この国の政治に漂う無力感や閉塞感がよく表れている。そんな彼らが唯一エキサイトした姿を見せたのが、金の話になった時だけというのも象徴的だ。

 

 

 政治的状況の描き方は悪くなかったが、残念ながら物語としてはイマイチだ。まずサポートしている候補者がどんな人物なのかが曖昧だった。初登場時にもっともらしいことをペラペラと喋っていたので、対選挙にだけ特化した英才教育を受けたサイボーグな世襲候補かと思っていたのに、案外と基本的な選挙対応でヘマをしていた。

 

 彼女は、世間知らずで浮世離れはしているものの、一般的な感覚は持ち合わせているお嬢様ということなのかもしれない。だが、彼女が欺瞞だらけの選挙に反発することで物語は動き出すのだが、このキャラクターにはその説得力がなかった。そもそも何を考えているのか、その本心が分からない。せめて選挙に対するやる気だとか新人の初々しさだとか、もっと人間味を見せて欲しかった。

 

 この候補者を演じた宮沢りえは、人の気持ちが理解出来なさそうな、心のこもっていない喋り方で、いかにもな女政治家らしさを醸し出していたが、このシチュエーションにはそぐわないキャラになってしまっていた。そこそこのキャリアのある政治家だったら相応しかったのだが。

 

 それに呼応した主人公も、それまでの不条理を散々受け流してきたのにそこでスイッチはいる?みたいな唐突感があり、こちらもリアリティがなかった。しかもその割には熱意が感じられない。敢えて全体的に熱くならないように抑えていたのかもしれないが、いくらなんでも温度が低すぎた。

 

 今の状況では、現実を笑い飛ばせるくらいのコメディにするのはさすがに難易度が高そうだが、せめて少なくとも人間ドラマくらいには仕立てて欲しかった。結局当選してしまった思想も政策もない空っぽの世襲の候補者が、急に頑張る気になったところで何もハッピーエンドじゃない。むしろ害悪になる可能性だってある。

 

 こんな現状はいい加減に変えなきゃいけないと思わせてくれる映画ではあった。ちゃんと選挙に行って、その後も監視を怠らない。民主主義の基本を地道にやっていくしかないのだろう。この映画も、なんだかんだ言っても一番悪いのは結局国民だよねと言っている。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本 坂下雄一郎

 

出演 窪田正孝/宮沢りえ/赤楚衛二/内田慈/小市慢太郎/音尾琢真/前野朋哉

 

決戦は日曜日

決戦は日曜日 - Wikipedia

 

 

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