★★★★☆
あらすじ
戦争末期に死ぬのを恐れて逃げた島でゴジラを目撃した特攻隊の男は、戦後に日本を襲撃したゴジラを倒すために立ち上がる。
アカデミー賞視覚効果賞。国産実写「ゴジラ」シリーズ第30作目。125分。
感想
今回のゴジラはどんな感じで登場するのかと期待して見ていたら、早い段階でいきなりさらっと現れて笑ってしまった。だが日本人にとってゴジラはこれくらいの存在なのかもしれない。雲の上の存在ではなく、近所のちょっと怖いお兄さんくらいのポジションだ。怖いことは怖いが親近感もある。盛り上げて満を持しての登場もいいが、今回のあっさりとした登場の仕方は新鮮で良かった。
怖気づいて生き残り、仲間を助けられずに自分を責める元特攻隊の男が主人公だ。序盤はこの主人公の戦中戦後の様子が描かれていく。この間、ゴジラは一旦脇に置かれるので、普通の反戦映画のような内容となっている。この後の展開を考えると必要なパートであることは分かるが、もうちょっと工夫が欲しかった。凡庸で停滞感があった。
やがて強大なゴジラが本州に現れ、打倒作戦が始まる。作戦を立案し、皆で準備をして実行に移る。皆が一丸となって一つのことをやろうとする流れが出来上がっていく過程はワクワクし、気分が盛り上がった。
この作戦を主導する博士を演じる吉岡秀隆がいい。くしゃくしゃとした表情に、何歳だか分からない得体の知れなさがあり、髪型も含めて魅力的なキャラだ。主人公よりも目が行ってしまう。
多くの人間が力を合わせて作戦を実行し、最後は主人公がとどめを刺す。これまでの展開上、主人公がどうなるのかは予想がついたが、まさかそうはならなないのか?と一瞬不安にさせた後、少しの間を置いてからやっぱりそうだったと安心させる演出は見事だった。安堵とカタルシスが同時に訪れる。
このゴジラとの戦いには、戦争はしないのが一番だが、どうしてもやらなければならないのならこういう戦いをしたい、というメッセージが伝わってくる。人命を軽視した大日本帝国に対する強い憤りと不信感がある。そもそもこの作戦が民間によるもので、政府が不在なのは皮肉だ。
戦争に心残りのある者たちの延長戦、といった趣のある戦いで、彼らの想いに胸が熱くなる。だがこのマインドを認めてしまうと、一億玉砕するまで戦わなかったことを悔やむ人たちまで認めなければならなくなるので、危うい気はする。なんなら悔いがあるからと、新たな戦争を引き起こす要因にもなりかねない。
戦争なんて個人が納得する形で終わるはずがないのだから、いつかケリをつけなければと考えるよりも、結果をそのまま受け入れることが大事だろう。もしゴジラとの戦いがなかったら、主人公はまだ自分の戦争は終わっていないと一生うじうじしながら生きることになったはずだ。そんな生き方をするくらいなら、悔いはあるが今となってはどうしようもないと受け入れて、気持ちを切り替え新たな一歩を踏み出した方がいい。
最後のヒロインの話はご都合主義が過ぎるが、色々と考えさせられながらもゴジラとの戦いに熱くなれる娯楽作品だ
スタッフ/キャスト
監督/脚本 山崎貴
出演 神木隆之介/浜辺美波/山田裕貴/青木崇高/安藤サクラ/佐々木蔵之介/阿南健治/マイケル・アリアス/阿部翔平/笠井信輔
音楽 佐藤直紀/伊福部昭
編集 宮島竜治
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