★★★★☆
あらすじ
史上最悪と言われ、支持率が一桁しかなかった首相は、聴衆に石をぶつけられ記憶喪失になってしまう。
感想
権力と金に固執し、国会では暴言を重ね、態度も横柄だった史上最悪の首相が主人公のコメディ映画だ。支持率も一桁しかない設定だが、こんな首相でも現実だったらきっと支持が30%くらいはあるんだよなと思ってしまうと、最初は気分が乗らず、なかなか物語の世界に入っていけなかった。こういう政治コメディは、現実の政治がまともに機能している時にしか笑えないのではないかと半信半疑になっている自分がいた。
だが次第にそんな不安は消え、最悪だった主人公が、記憶喪失がきっかけで最高の首相へと変身していく物語を純粋に楽しむことができた。何よりもネタとして取り上げる政治的トピックが誰もが気になるようなものばかりで、それに対する風刺も的確にキマっているのが良い。言いたいことを代弁してくれたようなカタルシスがあった。政権が何をしでかそうがとにかく支持することにしているらしい30%の人たちは楽しめないかもしれないが。
そんな中で、首相が幼なじみの業者に便宜を図っていた理由が「いい顔をするため」と言っていたのは、的を射ているなと感心した。金のためではなく、首相の俺はこんな事もしてあげられちゃうんだよ、と友人に親切な態度を示すためだけに作られた大学が現実にあったが、権力維持や裏金確保などの政治的目的があったのならまだしも、友人にいい顔をするためだけに税金が無駄遣いされては納税者としてたまらない。
しかも金銭的な見返りを求めていないので、犯罪として立証するのが困難なのも厄介だ。「誰かにいい顔をするために悪いことをした罪」を設けて欲しいくらいだ。そんなところで奉仕の精神を発揮していないで、国民全体に奉仕してもらいたかった。
それからある人物が主人公を「卑しくてお金に汚くて権力志向で自己顕示欲の塊」と評していたが、それって馬鹿な子供と変わらないなと思ってしまった。そんな人間しか首相になれないのだとしたら、確かに苦労せずに育った世襲議員の方が向いているかもしれない。
主人公を演じる中井貴一が、最悪の総理から誠実な総理に至るまでの過程をコミカルに熱演している。特に序盤の記憶喪失になったばかりで状況が上手く飲み込めず、ただオロオロする様子はまるで志村けんのようだった。その他、小池栄子や木村佳乃なども見事なコメディエンヌぶりを見せていて、役者陣の好演が光る。それから、異常に福耳な男や半そで短パンスーツの男など、何人かおもしろ政治家が登場するのに一切それに触れようとしなかったのもじわじわ来た。
さすがに理想主義的だろうと思ってしまうシーンもあるが、良く出来た政治コメディ映画に仕上がっている。そしてこんなことが現実に起きないかなと夢想してしまうから困る。現実だと、100回くらいは記憶喪失にならないとまともな首相に変わってくれなさそうではあるが。
スタッフ/キャスト
監督/脚本 三谷幸喜
出演
ディーン・フジオカ/石田ゆり子/小池栄子/斉藤由貴/吉田羊/木村佳乃/田中圭/草刈正雄/寺島進/濱田龍臣/有働由美子/梶原善/藤本隆宏/迫田孝也/ROLLY/後藤淳平(ジャルジャル)/宮澤エマ/小林隆/飯尾和樹(ずん)/阿南健治/近藤芳正/川平慈英/天海祐希/(声)山寺宏一
音楽 荻野清子