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「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程」 2008

実録・連合赤軍 あさま山荘への道程

★★★★☆

 

あらすじ

 1972年に起きたあさま山荘事件。そこに至るまでのメンバーたちの足取りを描く。

あさま山荘事件 - Wikipedia

 

感想

 序盤は連合赤軍が出来上がるまでの過程が描かれるのだが、様々な団体が出てきて正直、全然把握できなかった。ただ「連合赤軍」は「連合」しているからそう呼ばれているということだけは今回初めて知って理解した。

連合赤軍 - Wikipedia

 

 彼らが理想のために熱くなっているのは伝わってきたが、皆で何かを倒そうとするとそれぞれが様々な倒し方を考えるので、なかなか一丸になれない、というのは良く分かった。これが左翼が内部分裂しやすい理由だろう。その点、保守は現状維持のためだけに「守る」だけなので、まとまりやすい。

 

 警察にマークされ身動きしづらくなり、メンバーたちは山に籠もるようになる。この時点でもう終わりだろう、と思ってしまうのだが、海外ではゲリラ活動する反政府組織もあるので、まだ可能性はあると考えたのか、ただ敗北を認めたくなかっただけなのか。

 

 

 そして始まる「山岳ベース事件」のいわゆる内ゲバ、リンチ殺人の描写は凄まじい。目の前で起きる暴力をただ見つめ、そして自分が標的になることを恐れてそれに加担せざるを得ない状況に置かれてしまう。そして、次の標的にならないように皆が息を潜め、重苦しい空気の中でひっそりと過ごしている。もう見ているだけでつらい。

山岳ベース事件 - Wikipedia

 

 リーダーを始めとして、彼らはそれを「総括」だと正当化しているが、傍から見ていてはっきりと分かるのは、これはただのストレス発散でしかないな、という事。彼らは世間の目を逃れてひっそりと集団生活を送らざるを得ない状況なので、他のメンバーに対するイライラや閉塞感などがストレスとなって少しずつ蓄積しており、その鬱憤が一気に噴出したような感じだ。そして一度それをやったことでタガが外れ、止まらなくなってしまった。学校のいじめもそうだが、過度な集団生活は危険だ。

 

 それに、「総括」などといった独自ワードが生まれて一人歩きし始めるのは、集団がヤバい方向に向かっているという兆候なのかもしれない。「ポア」などの独自ワードを色々と使っていたオウム真理教を少し思い出してしまった。

 

 そもそも最初から活動家たちが話している言葉は良く分からなかったのだが、この集団生活の中で語られ始める言葉はますます理解不能になってくる。幹部ですら「もう意味が分からない」と零しているのを聞いて少し安心したが、リーダーが言葉を操ってその場を支配していく様子は興味深かった。

 

 そのやり口は、曖昧な言葉を仲間に投げかけて、その意味は聞かれても教えず、自分で考えろと突き放す、という手法。もうそれだけで理解しているのは自分だけという特別な立場になれてしまう。そうやって主導権を握り、メンバーが自分に従わざるを得ない状況を作り上げる。とても狡猾な手口だ。

 

 そんなリーダーに近づいて身の安全を確保した上で、気に食わない人間を粛清するよう仕向けて行く永田洋子も怖かった。陰湿でしたたかで嗜虐的。彼女を演じた並木愛枝が迫真の演技を見せている。組織にとって有意義な事であるならば、リーダーと彼女がまず率先して自らを「総括」するべきなのに、当然のようにそれをしない姿勢にも腹が立った。

 

 そして意外だったのは、誰もこの間違っている状況に声を上げようとしなかったことだ。確かに場の空気的に難しそうではあったが、でも初回は明らかに皆が納得できない表情で戸惑っていたのが分かるので、誰かが馬鹿らしいとか間違っているとかの声を上げるだけで、その後の状況は変わったように思える。

 

 リーダーが唱えるその世界観に皆が簡単に乗っかってしまったのが不思議だった。所詮、狭い枠組みの中でしか考えられなかったのだなと思ってしまった。そして、一度それを認めてしまえば、次も認めるしかなくなってしまう。その後逃亡したメンバーもいて当然だと思うが、それでも付いていくメンバーがいた事に驚いてしまう。平時ではない特殊な状況になると、突如、生き生きとし出す人もいるということなのかも、と思ったりもした。

 

 そもそも彼らの集団生活は堅苦しい言葉で語っているだけで、全然楽しそうじゃなく、息が詰まりそうだ。それに同志ですら脱落してしまうのに、大衆がついていけるわけがない。まかり間違って彼らの革命が成功していたら、とんでもなく暗黒な世界が待ち受けていたはずで、そうならなくて本当に良かった。

 

 やがて物語は、クライマックスのあさま山荘事件に突入していく。実話なのだから仕方がないのだが、この肝心な時にリーダーも永田洋子もいないのがなんだか腹立たしい。そしてこのあさま山荘事件は、もはや彼らのやり切ったという自己満足を得るためだけのものでしかなかったな、という印象。その満足感のために多くの人を巻き込んだ。

 

 この山荘立て籠もりも含めて、警察や世間などの外部の状況はほとんど描かれず、あくまでもメンバーたちの目線だけで物語は描かれていく。思い描いた通りにならない苛立ちや追い詰められていく焦燥感など、彼らの心境が良く伝わってきた。リンチなどのしんどい描写も多いのだが色々と考えさせられて、3時間以上ある上映時間も気にならず、映画の世界に引き込まれてしまった。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本/製作総指揮 若松孝二


出演 地曵豪/大西信満/坂井真紀/並木愛枝/ARATA/菟田高城/高野八誠/小木戸利光/タモト清嵐/坂口拓/笠原紳司/本多章一/伴杏里/渋川清彦/田島寧子/佐野史郎/奥貫薫

(声) 

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音楽 ジム・オルーク

 

実録・連合赤軍 あさま山荘への道程

実録・連合赤軍 あさま山荘への道程

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

実録・連合赤軍 あさま山荘への道程 - Wikipedia

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