★★★★☆
あらすじ
サウジアラビアの外国人居住区で起きたテロ事件を捜査するため、現地に向かったFBI捜査官のチーム。
原題は「The Kingdom」。110分。
感想
最初にサウジアラビアの歴史を、アメリカとの関係を交えながら、サクッと紹介してくれる。駆け足の説明なので完璧に把握できるわけではないのだが、それでもその後に描かれる両国の微妙な関係を理解するための前提知識として非常に助かった。石油とアメリカとイスラム教が、サウジアラビアをややこしくしている。
そして説明が終わった途端に始まるテロ攻撃。唐突感とあまりの激しさにぐったりしてしまうが、でもテロというのはこういうものだ。今日が人生最後の日だとは思いもしていない人たちの命を次々と奪っていく。
しかしテロは相手に出来るだけダメージを与えるのが目的とは言え、手口が卑劣すぎる。まずは無差別に銃撃し、次は逃げ惑う人たちを誘導すると見せかけて一か所に集めてからの自爆攻撃、そして数時間後に関係者らが現場に集まって来るだろう頃合いに特大の爆弾で吹き飛ばす。しかも、爆弾にはより被害が大きくなるように釘などを混入させている。人間はここまで悪魔のようになれるのかと恐ろしくなる。
事件に憤りを覚え、現地での捜査を望む主人公らFBI捜査官たち。自国で大量のアメリカ人犠牲者を出してしまったサウジアラビアはそれを望んでいなかったが、マスコミを使い、政治的な力を使って、なんとか承諾させる。そして乗り込んだ現場だが、今度は現地の警察の監視が厳しく、思うように捜査をすることができない。そしてここでも主人公は、うまく監視役の警察官を使って王に直談判し、より大きな裁量を手に入れることに成功する。
様々な利害関係がある中で、自分のやりたいことを出来るようにするには、こういうネゴシエーション能力は重要だ。状況を把握し、使えるものは何でも使うしたたかさ。それらで障害となるものを一つずつ取り除いていく。他のメンバーたちもそれぞれの仕事をしっかりやっていて、プロフェッショナルな良いチームだ。しかも陽気でフランク、軽口を叩くことを忘れないところが頼もしい。クリス・クーパー演じる捜査官が、鼻歌を歌いながら楽しそうにドブさらいをする様子は面白かった。
しかし、思ったような大きな成果は上げられず、帰国の途につくことになったチーム。しかし敵に襲撃されて、比較的おとなしく、静かだった捜査モードから一気に戦闘モードに切り替わる。そしてここからは、息つく暇もない怒涛の展開だ。
拉致された味方を追って敵の本拠に乗り込んでしまった主人公たちは、敵の猛攻撃にあう。絶体絶命過ぎる状況にハラハラさせられてしまうが、それでも主人公たちは冷静に対応し、状況を打開していく。
そしてクライマックスのジェニファー・ガーナ―演じる捜査官の敵との戦いはまさに死闘だった。パンチやキックできれいに倒すのではなく、使えるものは何でも使って死に物狂いで食らいついていく姿はとてもリアルだ。まさに生死を分ける闘いなわけで、正々堂々とか言っていられない。現実はこんなもので、これを美化したがる人間は想像力が足りないと言わざるを得ない。
この映画をアメリカ人対サウジアラビア人ではなく、ちゃんとテロリスト対反テロの構図に持っていこうとしているのはさすがだ。サウジアラビア人の警官との友情も良かった。ただ、今後も報復の連鎖は止まらないという事を示唆していて、それを考えるとしんどい気分になってしまう。今後もどれだけの人間がテロの犠牲となってしまうのだろう。
激しい戦闘の後には、緊迫のサスペンスが待ち受けていて、最後まで緊張感のある見ごたえのある映画だった。
スタッフ/キャスト
監督 ピーター・バーグ
製作 マイケル・マン/スコット・ステューバー
出演
ジェニファー・ガーナー/クリス・クーパー/ジェイソン・ベイトマン/アシュラフ・バルフム/アリ・スリマン/ジェレミー・ピヴェン/リチャード・ジェンキンス/フランシス・フィッシャー/ダニー・ヒューストン/カイル・チャンドラー
音楽 ダニー・エルフマン