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個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「信長の定理」 2018

信長の原理 上 (角川文庫)

★★★★☆

 

あらすじ

 「働きアリの法則」に気付いた信長が、配下の人間が皆良く働くためにはどうしたらいいのか思案する。 

働きアリの法則 - Wikipedia

 

感想

 信長の生涯が要所要所を踏まえて描かれていく。今回面白かったのは、信長に仕えた者たちの事が詳しく描かれているところで、織田家の人事の歴史が良く分かる。正直、明智光秀や豊臣秀吉、柴田勝家ら、信長が大きな力を持つようになった頃の主要な人物しか知らなかったので、信長がまだ尾張の一勢力として、家中さえもまとめ切れていなかった時代の話は興味深かった。

 

 佐久間信盛や林秀貞が織田家から追放された話も、その後の歴史を知った上だと、へーそんな人がいたのか、でも織田家で重要なのは秀吉や光秀だから、みたいに軽く流してしまいそうだが、当時の人たちのように、信長が尾張の一勢力からやがて天下を取ろうとする位置に行くまでの過程をじっくりと見ていると、それまでのトップ、筆頭の家老と文官を粛正した事がどれだけ衝撃的だったかが、ひしひしと伝わってくる。リアルタイムとあとから振り返って見るのでは、全然感想が違ってくることが良く分かる。

 

 

 たくさん登場する信長の家臣の中で、一番意外だったのは滝川一益。主要な武将だったにもかかわらず、信長の死後の争いでもあまり目立たず、地味なイメージだったが、若い頃はならず者だったという説もあるようだ。 

乱世をゆけ 織田の徒花、滝川一益 (時代小説文庫)

乱世をゆけ 織田の徒花、滝川一益 (時代小説文庫)

  • 作者:佐々木功
  • 発売日: 2019/03/13
  • メディア: 文庫
 

 

 しかし、こうやって色々な歴史小説や映画、ドラマなどを見ていると、史実かどうかはともかく、どんどんと歴史上の人物のキャラクターが立体化されてきて楽しい。旅行先で訪れた場所が、知っている歴史上の人物とゆかりのあることを紹介されていたりすると、急にその地に親近感を覚えたり。興味を持つだけでこれだけ人生が楽しくなるなんて、「歴史」はめちゃくちゃお得感のある趣味かもしれない。

 

 その他、当時の大名たちの情勢の変化もきっちりと描かれているのも分かり易くて良かった。「信長包囲網」とかも、でも結局大丈夫だったんでしょ、と思ってしまうのだが、これもリアルタイムで見ると本当にギリギリだったことが良く分かる。

 

 織田家の非情な人事を踏まえた上で、光秀が追い込まれていく過程が描かれ、それに当時の近畿の情勢と信長の家臣たちの位置が示されるので、光秀が謀反に踏み切った理由はこれだな、と思えるようなリアリティがあった。

 

 正直なところ、主題である「働きアリの法則」についてはピンとこなかったのだが、織田家内外の勢力の推移が描かれ、まるでとある企業の興亡史を見ているような面白さのある小説だった。本を読まなさそうな好きではない著名人が、冬休みに読みたい本として、好きではない著者の本と共にこの小説を挙げていて、逆にあんまり読みたくない気分になっていたが、読んでよかった。

 

著者

垣根涼介
 

信長の原理 上 (角川文庫)

信長の原理 上 (角川文庫)

  • 作者:垣根 涼介
  • 発売日: 2020/09/24
  • メディア: Kindle版
 

 

 

 

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