★★★☆☆
あらすじ
妻との外出中に空想にふける男を描いた1939年の表題作「虹をつかむ男(別の邦題:ウォルター・ミティの秘密の生活)」を含む短編集。
感想
表題作「虹をつかむ男」を原作とした映画「虹を掴む男」をリメイクした「LIFE!」が面白かったので読んでみたが、原作はこんな短い物語だったとは。これを膨らませて映画にしたことが凄い。原作は、空想にふける男の日常といった内容だ。
ちょっとした小話のような笑い話やミステリー感のあるもの、ただの昔話をしているだけのような話など、収められた短編はバラエティに富んだ内容となっている。ただ、その根本にあるのは、「虹をつかむ男」の主人公がする空想のようなものからスタートしたものが多い気がした。著者本人がそんな人間なのかもしれない。
フィクションというものは大抵空想からスタートするものだろうから当たり前と言えば当たり前なのだが、どこか地に足が付いていないようなふわふわした読み心地がする。結末も、ん?どっちだ?と思ってしまうようなものも多い。
それから、「精神分析の先生にみてもらえば?」みたいなシーンが多いのも印象的。時代的にそれが注目されていたからというのもあるだろうが、著者自身も自分のそんな性格に気付いていたということかもしれない。
収められたものの中から、気になった短編の感想をいくつか。
「人間のはいる箱」は、まるで安部公房の「箱男」のようだった。順番で言うとこちらが先だが。あの段ボールの箱を見て、あの中に入って生活したいと夢見る人が世界中に一定の数いるかと思うと、ちょっと可笑しい。そしてちょっとその気持ちが分かってしまうのだが。
98セントの買い物に対して、1ドル3セントの支払いをお願いをして始まる「ウィルマおばさんの勘定」。疑心暗鬼のおばさんがそこに10セント追加したり、10セント貰おうとして、どんどんと混乱が増していく笑い話なのだが、計算が苦手な自分としては、ついていくだけで精一杯で頭が痛かった。そばでそれを見ながら「いや、おばさんが何セント損するから」とか「それだとお店が何セントの損だよ」と冷静に指摘している主人公の少年の計算能力が羨ましい。頭は痛くなるのに、なぜか笑えてくる不思議な話だった。
著者
ジェームズ・サーバー
登場する作品
「アイヴァンホー〈上〉 (岩波文庫)(アイバンホー)」
「Lorna Doone; a Romance of Exmoor (English Edition)(ローナ・ドゥーン)」
「Marching Through Georgia(ジョージア進軍歌)」
「讃美歌第379番「見よや十字架の」(見よや、十字架の旗たかし)」
「Row Row Row Your Boat(漕げ、漕げ、漕げ!)」
「我がハレムで」
関連する作品
1947年の映画化作品
1947年の映画化作品のリメイク