★★★★☆
あらすじ
女子高の伝統行事であるチェーホフの「桜の園」の上演が行なわれる創立記念日の朝、演劇部員たちが続々と登校してくる。
吉田秋生の同名漫画を中原俊監督が映画化。中島ひろ子、つみきみほ、白鳥靖代ら出演。キネマ旬報ベスト・ワン作品。96分。
感想
「桜の園」上演当日の朝から開演するまでの、演劇部の部員たちの様子が描かれる群像劇だ。若くてまだ定まっていない雰囲気の部員たちの顔には、思春期ならではの脆さや危うさが秘められてことが感じられる。
そんな彼女たちのエピソードが断片的に描かれていくだけかと思っていたが、その後、すでにビシッと顔が仕上がっているつみきみほや白鳥靖代らが登場し、物語の核となる物語も見えてくる。
部長と主演女優、問題児の三人の、淡い恋心のようなものが交錯する様子が淡いタッチで描かれる。10代後半の少女たちにとって確固としたものは何もなく、すべてがあやふやで淡いものなのだろう。心に秘めた思いや感情もおぼろげで、持て余し気味だ。
そんな時間を過ごしながら、少女たちの中に少しずつ確かなものが生まれていく。部長に密かに思いを寄せながらも、それが叶わぬと知っているつみきみほ演じる問題児の部員が、彼女のためにそっと気を利かすシーンはグッと来た。こうして人は大人の階段を上っていく。
とはいえ、多くの部員たちは晴れの日であるにも関わらず、緊張もしないで無邪気にあっけらからんとしているのが印象的だ。こんな風に青春の日々は過ぎていく。そのかけがえのなさに気付くのはずっと後のことだ。
もし何年か後に皆で集まり、この日の話をすることがあったとしたら、きっとそれぞれの記憶があまりにも違っていることに驚くのだろう。皆で差し入れのアイスを食べたことを忘れていたり、誰かのふとした言葉を妙に覚えていたりする。
舞台で使うソファーを運び込むために、数人の部員が外でしばらく待機するシーンがあったが、案外とこういう宙ぶらりんな時間が記憶に残るものだ。そして、あの時の花びら舞う桜並木は綺麗だったなと、折あるごとに思い出す。
特別大きな事件は起きず、何気ない演劇部員たちの日常が描かれているだけなのだが、ついつい見てしまう吸引力のある映画だ。そしてノスタルジックな気分に浸ってしまう。
スタッフ/キャスト
監督 中原俊
脚本 じんのひろあき
原作 櫻の園 (白泉社文庫)
出演 中島ひろ子/つみきみほ/白島靖代/梶原阿貴/三野輪有紀/白石美樹/後藤宙美/いせり恵/金剛寺美樹/菅原香世/永田美妙/丸山昌子/宮澤美保/古川りか/西村雪絵/永椎あゆみ/佐藤友紀/浅沼順子/山田純世/白戸智恵子/阿部千種/大原麻琴/三上祐一/橘ゆかり/上田耕一/岡本舞/南原宏治
登場する作品
劇中劇で上演されようとする作品
「桜の園」
*所収
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