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「あの子を探して」 1999

あの子を探して [DVD]

★★★★☆

 

あらすじ

 中国の農村の小学校で、一か月の代理教師をするためにやってきた13歳の少女。ある日突然出稼ぎに出された男子児童を探しに、都会へと向かう。

 

感想

 道路も舗装されていないような田舎の小学校。学校はボロボロで当時の教育環境の悪さを物語っている。生徒達も貧しく、家庭の事情で通えなくなる子供たちもいる。学校に寝泊まりする子供たちもいるのだが、彼らは家が遠いからなのか、親がいないからなのか。

 

 そんな小学校にやってきた一人の少女。13歳で代理教師をするというのに驚かされる。辺鄙な場所だというのもあるが、教育の人的資源も乏しかったという事なのだろう。この主人公の少女が、やる気があるのかないのか良く分からない、なんともいえない表情をしていてそれが良かった。まだ幼さが全然残っていて、体面を取り繕おうとしないというか。意外と物怖じもせず、まわりの大人たちに従順に従うのではなく、文句があれば言うし、なんなら質問に答えなかったりする。大人たちもそれをとやかく言う様子はないので、これは国民性なのだと思うが。

 

 

 主人公はなんとか教師らしい事をして日々を過ごしていたが、ある日突然一人の児童が姿を消したことに気付く。出稼ぎで都会に出されたという事だが、まだ小学生というのにハードモードだ。これまた驚かされる。

 

 そんな児童を迎えに行こうとする主人公。都会への交通費がなくて、生徒に金を出せと言い出したのにはビビったが、どうすれば必要なお金を得ることができるか生徒と一緒に考えるシーンは良かった。旅費や賃金など色々な計算をしたりして、自然と教育になっている。十分な教育を受けたことがない人ほど、勉強なんて何の役に立つのかと言いがちだが、そういう人たちに対して、説得力のある回答をしていると言える。

 

 そして都会に向かう少女。出稼ぎ先で簡単に児童が見つかるのかと思いきや、駅で行方不明になったという。しかし、誰も必死に探そうとしないというのはなかなか薄情だ。彼らも自分たちの事で精いっぱいという事なのかもしれない。

 

 児童も単純に迷子になったのか、嫌で逃げたのかが良く分からないが、お腹を空かせて町を彷徨う姿は痛々しい。そんな子供を見ても町の人は気にする素振りはないので、そういう子供はたくさんいるという事なのだろう。ただ、そんなもの欲しそうにしている子供を見て、食べ物を恵んであげる人もいる。それも恩着せがましく渡すのではなく、さりげなく渡すところに優しさを感じた。ただ、言い方は悪いが野良猫に餌をあげるみたいな感覚なのかもしれないが。

 

 児童を探す主人公もかなり難航するが、彼女の執念というか粘り強さに多くの人の善意や善意のような物が積み重なって、ついに目的を果たすことができた。この明らかな善意ではない、「善意のような物」というのは結構重要だなと思った。ちょっとした魔がさしたような善意でも人々の役に立つ。

 

 考えてみれば、主人公が児童を探しに行った動機もちょっと怪しいところがあって、純粋に児童が心配だったのか、それとも休暇を取った先生と約束したボーナスの為だったのか。それに児童にご飯を食べさせていた食堂のおばさんも、もしかしたら安く人を働かせられるという打算があったのかもしれない。真相は分からないが、それでもその善意もしくは善意のような物が、一人の人生を救うことができた。

 

 少女が教師らしくなっていく姿と、児童たちのいかにも田舎の子供というような素朴で無邪気な表情がとても印象的な映画。この映画から20年経過し、その間に劇的に発展した中国だが、今もこんな風景が残っているのだろうか。もしかしたら今の中国の若者はそんな貧しい時代があったなんて信じられない、と思うのかもしれない。

 

スタッフ/キャスト

監督 チャン・イーモウ

 

出演 ウェイ・ミンジ/カオ・エンマン/チャン・ホエクー/チャン・ジェンダ

 

あの子を探して [DVD]

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  • 発売日: 2015/09/02
  • メディア: DVD
 

あの子を探して - Wikipedia

 

 

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