★★★★☆
内容
2010年代のポップ・カルチャー界を総括する対談。
感想
個人的にはあまり2010年代というディケイドを意識していないので、こうやって総括した本を読むと、そういう時代だったのか…と他人事のように感心してしまう。自分もこの10年を生きてきたはずなのに。
ただ内容に激しく同意するのではなく、そうだったのかと感心してしまう事の方が多いということは、メインストリームじゃなく、自分の居心地の良い蛸壺の中、フィルターバブルの中で過ごしてきたということなのだろう。この本の中で取り上げられた音楽の話についてはかろうじてついていくことが出来たが、マーベル映画やテレビドラマの話はほとんど知らなくて正直辛かった。
これは個人の話だけではなくて、日本全体の問題としていえる事ではある。英語がわからない、国内だけでそれなりにやっていける市場規模などの様々な理由で、世界からは孤立し、ガラパゴス化してしまっている。別にそれでいいという人もいるのだろうが、過去の遺産を食いつぶすだけでは、そのうち世界からは見向きもされなくなってしまうのだろうな、という気がする。過去のドラマが再放送されて盛り上がっている現状は象徴的かもしれない。
それから、「時代の変化」というと、spotifyやNetflixの登場という分かりやすいものに注目してしまいがちだが、その前に大きな業界の構造の変化などが起きている、という話は興味深かった。構造の変化により人々の動きが変り、そして新たな文化が生れていく。
その構造の変化というのは、ほとんどが巨大資本による寡占化が進む、というような話で、いわゆるグローバリゼーション化ということなのだが、必ずしもそれが悪ではない、という見方は面白い。先進国で貧富の差が拡大しているのは、グローバリゼーションによって、貧しさを押し付けていた後進国が豊かになったからだという見方。
豊かな国、貧しい国があるのではなく、これからは世界中どこにいっても等しく豊かな人、貧しい人がいるようになるという世界。豊かさを享受してきた先進国にとっては良い事ではないのかもしれないが、貧しい人々を直接目にする機会が増えることによって、世界の貧困問題を解決しようとする機運が高まるのかもしれない。
時には異なる意見をぶつけ合いながら語り合う二人の対談がスリリング。同意できない意見でも取り敢えずはちゃんと話を聞こうとする二人の姿勢は、当たり前と言えば当たり前なのだが、頭ごなしに否定して罵り合ったり、すぐにブロックして排除したり、意見を同じくする者同士だけで気持ちよくなっているSNSの世界を見慣れてしまった身には新鮮だった。本の中で語られている、分断を深める世界に対処するための一つの方法を提示しているようにも思えた。
この本を読んで、必ずしもメインストリームにどっぷり浸かる必要はないが、その動向を常に意識しておくことは重要だな、という思いが強まった。過去の作品を参照しつつ、その時に作られた作品を時代の空気と共に最大限に楽しむ、ということは、その時代を生きている人間にしか出来ないことだ。
著者
宇野惟正/田中宗一郎