★★★★☆
あらすじ
何か月もの間、誰の命も救えない事に落ち込む救命士の日々。
原題は「Bringing Out the Dead」 。
感想
まずは「救命士」というあまり観る気の起きないタイトルはどうなのだろう。原題は直訳すると「死体を運び出す/死者を蘇らせる」で、これに従うとホラーやサスペンスと勘違いされそうでなかなか難しそうではあるが、もうちょっと引きのある工夫した邦題をつけるべきだった。
映画は何か月も人を助けられず、そのおかげで不眠症に悩む救命士の日々が描かれる。ある患者の家族との出会いが主人公に変化を引き起こすというメインのプロットはあるのだが、そのほとんどは主人公が同僚と救急車に乗り込み、病院と現場を行き来する描写だ。ドキュメンタリー番組「警察24時」の救急車バージョンといったところで、銃撃事件、出産現場、自殺志願者、迷惑な常連など、ありそうなシーンがたくさん登場する。そして救急車から見た夜のニューヨークの街並みがたびたび映し出されて映画「タクシードライバー」ぽくもあり、麻薬や売春、移民の問題など社会の暗部を浮き彫りにしてもいる。
そして主人公と共に救急車に乗り込む同僚たちが面白い。皆一様にテンションが高く、陽気だ。毎日のように人の生死に立ち会っていたら普通じゃいられない、という事なのだろう。敢えておかしなテンションに自分を置くことで、逆に正気を保とうとしているようにも思える。これは敢えてそうしているのであって頭がおかしいからじゃない、と自分に言い聞かせているかのようだ。映画にはコミカルと狂気が常に漂っている。
それから、いつもそんな調子でだらだらと喋ってなかなか現場に行こうとしない彼らにヤキモキしてしまうのだが、そういう時間帯があるから現場では無駄な力が入らずプロフェッショナルな仕事ができるのかもしれない。勤務時間中、常に張り詰めた状態でいたら無駄に疲れてしまう。そのおかげで肝心なときにしくじってしまうこともあるかもしれない。そうならないようにオンとオフを上手く切り替えて、楽しく真剣に仕事をしようとする彼らの姿は、日本も見習いたいところだ。ただそれには、勤務中にコーヒーを飲んだり、ピザを食べたり、タバコを吸ったりする彼らを見ても誰も咎めない社会にしなければならない。そしてそれが一番大変そうだ。
定期的に小気味の良い音楽が流れ、無線のやり取りも軽妙で、なんだか救命士特集で体験談を紹介するテンション高めの深夜ラジオみたいな映画になっている。それを真夜中にドライブしながら聴いているような感じだ。リスナーに電話して体験談を聞き、リクエストの曲をかける。それを数セットくり返し、最後に「救命士は人の命を扱う大切な仕事。だけど必ずしも人の命を救うことが絶対ではない時もあります。救命士の皆さん、お仕事お疲れ様です。ではおやすみなさい!」とうまく〆られた気分。
スタッフ/キャスト
監督 マーティン・スコセッシ
脚本 ポール・シュレイダー
出演 ニコラス・ケイジ/パトリシア・アークエット/ジョン・グッドマン/ヴィング・レイムス/トム・サイズモア/マーク・アンソニー/クリフ・カーティス/ネスター・セラーノ/アイダ・タートゥーロ/メアリー・ベス・ハート/ソーニャ・ソーン
音楽 エルマー・バーンスタイン