★★★★☆
あらすじ
南米チリで起きたクーデーターで息子が行方不明となり、現地で息子の妻と合流して捜索に奔走する父親。
事実を基にした物語。カンヌ国際映画祭パルムドール受賞作。
感想
クーデターに巻き込まれて行方不明となった男の妻と父親が、心を一つに協力し合って必死に捜索する物語かと思いきや、二人の間には大きな溝があり、主人公である父親はわだかまりを抱えながら行動を共にしている。
古い人間で信仰心が篤く、保守的な主人公は、若く進歩的な考えを持つ息子たち夫婦のことを元々快く思っていなかった。今回の事件も、彼らの左翼的な活動が原因ではないかと疑っている。さらに、現地の公的機関は信用できないとすでに見切った最初から関わっている妻と、まずは彼らに頼ろうとする後からやってきた主人公の間には、タイミングの違いによる温度差も生じている。それでも男を見つけ出したいという思いは同じで、一枚岩でないながらも互いに協力し合う。
そんな二人の様子を見ていると、この映画は保守的な考えを持つ主人公が、信念を打ち砕かれていく物語のように見えてくる。連行されたとされる息子はどんな悪いことをしていたのだ?と訊ねた主人公が、悪いことをしないと捕まらないと思っているの?と返され、戸惑う表情が印象的だった。
つまり保守的な考えとは、お上は悪いことはしないし、正義は常に為されると信じることなのだろう。そしてそれは多くの人にとっては大方正しい。だからその多くの人の中の大半は保守的な考えを持つことになる。だから、保守派が多数派なのは当たり前のことだ。
だが保守派の人間も、自分が多数派でなくなった途端に、信じていたことが誤りだったことに気付く。主人公も、異国のクーデターに巻き込まれた息子を持つ父親、というマイノリティの立場になった途端にそれを思い知ることになる。よくリベラルはお花畑だと揶揄されるが、保守派も似たようなものだ。自分が当事者になるまで無邪気に国を信じている。
現実を目の当たりにし信念が揺らぐ主人公を、ジャック・レモンが好演している。競技場でマイクで呼びかけるシーンでの一連の演技は、心の動揺がよく表れていて見事だった。考えを改め、息子の妻と和解するシーンも感動的だ。
悲しい結末を迎え、帰国することになった主人公たち。見送る領事館の人間らに「国がお前らを許しはしない、訴えてやる」と息巻く主人公に、この期に及んでまだ信じているのだなと、なんとも言えない気持ちになった。
事実を基にした物語で実際はどうだったのかは知らないが、国を訴えるというマイノリティになった主人公は、きっと多数派の「保守派」に叩かれたのだろうなと想像してしまう。保守だった人間がある日を境に保守とは呼ばれなくなり、保守に叩かれるようになるのはよく見る光景だ。
スタッフ/キャスト
監督/脚本 コスタ=ガヴラス
原作 The Execution of Charles Horman: An American Sacrifice
出演 ジャック・レモン/シシー・スペイセク/ジョン・シェア/チャールズ・シオフィ/デヴィッド・クレノン
音楽 ヴァンゲリス
編集 フランソワーズ・ボノー