★★★★☆
あらすじ
うだつの上がらない二つ目の落語家は、ふとしたきっかけで関西出身の小学生、元プロ野球選手、無愛想な若い女性を相手に話し方教室をすることになる。
感想
主人公はうだつの上がらない二つ目の落語家だ。師匠の講演を途中退席した女性に、タメ口の上から目線でなぜだ?と問い詰めるような人間で、最初はそのキャラクターがよく掴めなかった。見ているうちに分かって来るのは、主人公は偉そうにしているわけではなく、どうやら江戸っ子を気取っているらしいことだ。普段から着物で生活するような変わり者だから、そんな風に自己演出をしているのだろう。
とはいえ、上下関係の厳しい落語界にいて客商売でもあるのに、知らない人にタメ口で絡んでいくキャラ設定はどうなのかなと思ってしまう。別に江戸弁だって、敬語くらいあるだろう。ただそんな主人公に対して微かに芽生えた反感も、慣れるにしたがって消えていく。
主人公は、関西弁をからかわれる転校生の子供に東京弁を教えて欲しい、という要望を受けて話し方教室をやることになる。そこに口下手な元プロ野球選手、無愛想な若い女も加わり、彼らとの交流が始まる。
主人公が何をやるかと言えばただ落語を教えるだけなので、それで話し方を教えることになるのか?と思わなくもないが、感情表現を交えつつ、ひとりで延々と喋りつづけることが出来るようになれば、普段も言葉が出てきやすくなって会話が改善するだろうということなのだろう。生徒皆がめちゃくちゃ熱心というわけではないが、それでもそれぞれに秘するものがあり、ちゃんと真面目にやって来る。やる気の見せ方は人それぞれなので、リアルと言えばリアルだ。
教える側の主人公もパッとしない落語家なので、偉そうにしていても「お前はどうなんだ?」と反発されると返す言葉がない。先生という立場にいながら、絶対的な存在でないところが皆とのバランス関係を絶妙なものにしている。彼自身もまた、この教室を通して色々と学んでいる。話がうまくなるには「聞いて欲しい」とお願いする気持ちではなく、「聞かせたい」という願望を持つことが大事、ということだろうか。
ヒロインの香里奈にあまり魅力的な見せ場がないなとか、松重豊演じる元プロ野球選手にも成果を披露する場を用意して欲しかったとか、色々と指摘したいことが他にもたくさん出てくるのだが、それでもまずまず楽しめる映画だった。
スタッフ/キャスト
監督 平山秀幸
出演 国分太一/香里奈/松重豊/森永悠希/八千草薫/伊東四朗/下元史朗/山本浩司/中村靖日
音楽 安川午朗