★★★☆☆
あらすじ
睡眠薬を飲んで自殺を図った中年女が気付くと、1989年にタイムスリップしていた。青春時代に好きだった二人組のミュージシャンに起きた悲劇を止めるべく、女は動き出す。
感想
過去にタイムスリップしたら、普通は自分自身の人生を修正したくなると思うのだが、この主人公は思い入れのあるミュージシャンの歴史を変えようと奔走する。それだけそのミュージシャンが好きだったとも言えるが、自分に関心を持てなくなってしまっているとも言えるかもしれない。だからこそ自殺を図ったわけで。
主人公は、好きだったミュージシャンの運命を変えることで、自分の人生も変わると考えていたのだろう。それほど彼らの存在が主人公の人生の大きな位置を占めていたことになる。そう考えると、誰かに熱中することは悪いことではないが、崇拝し過ぎるのは良くないことなのかもしれない。崇拝しすぎて、自分がいなくなってしまう。
この主人公の好きだったミュージシャンのモデルはどう考えてもフリッパーズ・ギター。彼らのことは小説の中では勿論フィクションになっているが、それ以外のこの時代の音楽やテレビ、流行は詳細に語られていて、もう忘れてしまっていたことも色々と思い出し、懐かしい気分になる。
フリッパーズ・ギターは解散して、現在は各自がソロで音楽活動を続けている。しかし、小説の中のミュージシャンはそうなっていない。なので主人公のタイムスリップで歴史が変わり、本当のフリッパーズ・ギターのその後みたいになっていたら面白いかなと思いながら読んでいたが、甘かった。
主人公が、天才のミュージシャンたちに近づけたのは、未来を知っているというアドバンテージがあったから。だからもし彼らと今後も付き合いが続いたとしても、タイムスリップ前の時点を過ぎてしまったら、結局また天才と凡人の立場に分かれてしまう。
そう考えるとあの結末でよかったのだろう。凡人であったとしても、卑下することも遠慮することも必要なく、ただ自身のやらずにはいられないことやるだけだと悟ったのだから。
著者
登場する作品
カフェでよくかかっているJ-POPのボサノヴァカバーを歌う女の一生
「無鉄砲大将」
「ハイティーンやくざ」
(There's Always) Something on My Mind
Kid A?[国内盤 / 解説・日本語歌詞付] (XLCDJP782)
ノストラダムスの大予言 迫りくる1999年7の月人類滅亡の日 (ノン・ブック)
「儀式」 林真理子