★★★★☆
あらすじ
2007年に始まったサブプライムローン問題、それに続くリーマンショックを予見し、莫大な巨利を得た男たちの物語。原題は「The Big Short」。
感想
サブプライムローンの不良債権化により、近くアメリカが経済危機に陥ることに気付いた男たちの物語だ。彼らが集結してチームを組むのかと思ったが交わることはなく、それぞれがそれぞれの立場でこの事態に立ち向かう姿が描かれていく。いわゆる群像劇だ。
登場する人物たちがみな一癖も二癖もありそうな変人なのが面白い。だから危機に気付くことが出来たのか、単純に金融業界はそんな変人の集まりだからなのかは分からないが。
複雑な金融商品の話題なので、素人には難しくてついていけなくなりそうだが、なぜか突然セレーナ・ゴメスやマーゴット・ロビーが現れて、分かりやすく説明してくれるので楽しい気分にさせてくれる。それでも完璧に理解できたとは言えないのだが、なんとなく分かった気にはなる。
中盤で、投資家グループは経済危機の予兆を調査するために視察を行う。現地の惨状を目の当たりにしているはずなのに、関係者たちは得意げに異常な取引の手口を語り、ビジネスが好調だと自信満々だ。その様子を見て投資家の男が唖然としてしまっていたシーンが印象に残る。彼らはバブルで浮かれていたとも言えるが、専門家であり当事者なのに、実際には何も分かっておらず、何も考えていないことがよく分かる。
それで思い出すのは今年ロシアがウクライナに侵攻したときのことだ。一般人が、まさかこんなことが起きるなんて…日本は大丈夫なのか？と不安になるのは分かるのだが、政治家たちまでもが「うわぁぁああ！！ヤバいヤバい。急いで軍備拡張だ、憲法改正だ、核共有だぁー。うわぁぁ！ヤバいー。」と同レベルでパニクっていたのには呆れた。
「皆さんが不安になる気持ちはわかりますが、我々は普段からあらゆる事態を想定し、それに備えていますので安心してください。」とか言ってくれるのかと思っていた。この人たちは普段色々と勇ましいことを言ったりしているが、結局それは言葉遊びに過ぎず、本当は何も考えてないのだなということがよく分かった。
それに騒ぎが落ち着いた今、で、核共有の議論をするべきとか言っていた政治家たちは着々と議論を進めているの？というのもある。飲んで気が大きくなっただけのおじさんと同じで、酔いが冷めれば何もしない。この諸々のグダグダ具合が、映画で描かれていたこととカブって見える。
なかなか問題が表面化せず、まわりの人間たちに頭がおかしいと陰口をたたかれ、金を返せと罵られ続けた男たち。遂にその時がやって来て、彼らは莫大の利益を手にすることが出来た。だがそこにはさして痛快さはない。
考えてみれば、自国が経済崩壊し、多くの人が路頭に迷って人生を狂わされてしまっているのに、予想が当たったと手放しで喜べないのは当然か。それにこの状況で大儲けしてしまうのは、一般人がイメージする強欲な金融マンの姿そのものでもある。異常に気付いてまともに対処したはずの男たちのジレンマに満ちた表情は、なんとも言えないものがあった。
小難しくなってしまいそうな映画だが、時にドキュメンタリー風に、時にコミカルに、と工夫して描くことでそれを上手く回避している。コラージュ風に写真を散りばめて、時代の空気を簡単にイメージできるようにしているのも上手い。クリスチャン・ベール演じる投資家がハードロック好きな設定になっていることもあって音楽が上手く使われており、その選曲も良かった。楽しく見れて、そして深く考えさせられる映画だ。
スタッフ／キャスト
監督／脚本 アダム・マッケイ
原作 世紀の空売り 世界経済の破綻に賭けた男たち (文春文庫)
製作／出演
出演 クリスチャン・ベール／スティーヴ・カレル／ライアン・ゴズリング／フィン・ウィットロック／レイフ・スポール／ジェレミー・ストロング／マリサ・トメイ／バイロン・マン／メリッサ・レオ／トレイシー・レッツ／カレン・ギラン／マックス・グリーンフィールド／ビリー・マグヌッセン／マーゴット・ロビー／セレーナ・ゴメス／リチャード・セイラー／アンソニー・ボーディン
音楽 ニコラス・ブリテル
