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「一条さゆり 濡れた欲情」 1972

一条さゆり 濡れた欲情

★★★☆☆

 

あらすじ

 人気のある一条さゆりに敵愾心を燃やすストリッパー。

 

感想

 タイトルに「一条さゆり」と名前が入っているが、実際の主役は彼女ではなく、伊佐山ひろ子が務めている。しばらくはそれに気づかず、脇役なのにずいぶんしっかりと描くのだなと思いながら見てしまっていた。それだけ一条さゆりが業界ではスターだったということなのだろう。

 

 主人公の最初の登場シーンはなかなかインパクトがあった。薄着の派手な格好でずんずんと歩き、その後ろを大きなトランクを抱えた男がついて行く。このトランクがいわゆるスーツケース的なものではなく、本当にただのデカい箱で、こんなのを持って電車に乗られたら他の乗客は迷惑するだろうなと思ってしまうような代物だ。

 

 彼女たちストリッパーは、ここに商売道具の衣装や身の回りの生活用品を詰め込み、全国の劇場をドサまわりしている。このトランクを女一人で持ち歩くには大きすぎるので、それを運ぶ男手があると便利だ。というわけで、大きな荷物に加えて色々使えるヒモの男も彼女たちの必需品となる。

 

 こんな大きな荷物とヒモの男を引き連れて全国を回るなんて大変そうだが、見方を変えてそれが彼女たちの全財産だと考えると、今度は逆に心細さを感じるようになる。このトランクだけで、彼女たちの苦労の多そうな人生を表現できてしまっているのかもしれない。

 

 

 一条さゆりのステージの様子を見せつつ、表では彼女に媚びを売り、裏では嫌がらせをするような、主人公のビッチぶりが描かれていく。主人公は同時に脆さや弱さも見せているので、人間味が感じられる憎めないキャラクターだ。演じる伊佐山ひろ子の魅力もあって嫌いになれない。それにどこか投げやりな雰囲気があるのに、新しい芸の開発に熱心だったり、キッチリとステージをこなしたりと、仕事に対しては真剣なのも好感が持てる。

 

 一条さゆりは本人役で出ていることもあって、業界のきれいな面しか見せられない。それで、その代わりに主人公が裏のドロドロとしたリアルな面を表現しようとしているように見える。引退を控えた余裕のあるスターと、焦燥感で余裕のない野心家の女という対比もあるだろう。

 

 一条さゆりも、自分に敵愾心を燃やす主人公を軽くいなし、ただの純真無垢な聖女ではなく、数々の修羅場をくぐり抜けてきた胆力のある女であることを窺わせているのも良い。引退後の態度にもプライドが感じられる。

 

 それから何度か主人公らが警察の手入れで逮捕されているが、見せた見せないを真剣に取り締まっている警察のバカらしさが際立ってしまっている。見せたい人と見たい人がいて、それを横から部外者が口出しする必要はあるのだろうかと考えてしまう。そこに血道を上げる暇があるのなら、巨悪を取り締まるとか他にいくらでもやることがあるはずだ。そんな業界からの批判も感じられる。

 

 ちなみに劇場のショーのシーンで観客の顔になぜかボカシが入っていたが、あれはエキストラではなく本物の客だったのだろうか。

 

 この映画は、この年のキネマ旬報の日本映画ベストテン(8位)に選ばれるなど評価が高いが、個人的にはそこまでピンとこなかったというのが正直なところだ。後の「仁義なき戦い」にも影響を与えたらしいので、ドキュメンタリータッチの物語が新鮮だったのだろうか。その後に作られた同様の手法の映画をたくさん見てしまった後ではもう味わえないタイプの良さなのかもしれない。

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スタッフ/キャスト

監督/脚本 神代辰巳

 

出演 一条さゆり/伊佐山ひろ子/白川和子/粟津號/高橋明/小見山玉樹/中平哲仟/絵沢萠子/中田カウス/中田ボタン/小沢昭一

 

撮影 姫田真左久

 

一条さゆり 濡れた欲情 - Wikipedia

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