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「「エロ事師たち」より 人類学入門」 1966

「エロ事師たち」より 人類学入門

★★★☆☆

 

あらすじ

 エロ事に関する仕事をこなしながら、内縁の妻とその二人の子供を養う男。

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感想

 主人公は、売春のあっせんや猥褻フィルムの制作販売などエロ事を生業にする男だ。非合法な職業であることを別にすれば、内縁の妻と子供たちを養い、その学費まで面倒を見ようとするのだから立派な男である。仕事ぶりにも下卑たところはなく、客の要望をただ淡々とこなしていく。

 

 また、客や仲間たちが欲望に忠実で奔放なのとは対照的に考え方も保守的で、本人も言っていたが根は真面目な男なのだろう。普段はそれを売っているくせに、エロ本を隠し持っていた義理の娘を叱り飛ばし、説教するシーンは可笑しかった。だが親心としては当然か。

 

 

 そんな真面目な男なのに、主人公は流されて義理の娘と関係を持ってしまう。良くない事だがよくある事だ。どうしようもない人間の性と言える。こういう仕事をしていると周囲にそういう人間が集まってくるし、元からいた人たちもそちらに寄せて行ってしまうところがあるのかもしれない。人間誰しもが元々持っているものだから、触発されて発露しやすくなるのだろう。誘惑の多い環境だ。

 

 主人公に養われる一家にも奇妙さを感じさせるものがある。受験を控える高校生の息子は寒いからと母親の布団に潜り込むようなマザコンだ。それでいてなにかと金を無心し、家を出ていきたがる。そんな息子に母親は甘い。文句を言いながらも好きなようにさせている。

 

 一方の娘は放ったらされがちで、それでいて主人公と関係を持ったと母親に知れたら、勝手に結婚をさせられそうになってしまう。子供っぽく傍若無人に振る舞い、女から女へと渡り歩く男と、その世話をしながら振り回され続ける女、歪な男女の関係がシンボリックに描かれている。

  

 主人公は自身の諸問題が片付いた後も、エロ事の仕事を続ける。人間の業だと達観し、自分のことは度外視して他人のために仕える彼の姿にはちょっとした聖人ぽさがあった。風俗で働く女性を聖女と崇めてしまう人がいるように、他人の欲望に応えようとする人には神々しさを感じてしまうものなのかもしれない。

 

 ラストシーンはまるでエロのために身を捧げる「補陀落渡海」みたいになっていて見事だった。ただそこに至るまでが長く、ダレてしまう時間があったのが残念だ。

補陀落渡海 - Wikipedia

 

 それから映画とは関係ないが、「南極1号」の名前ってそういう経緯で付けられたのか、という学びがあった。

南極1号 - Wikipedia

 

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本 今村昌平

 

原作 エロ事師たち (新潮文庫)

 

出演 小沢昭一/坂本スミ子/近藤正臣/田中春男/菅井一郎/菅井きん/浜村純/二代目中村鴈治郎/殿山泰司/ミヤコ蝶々/西村晃/佐藤蛾次郎/小林昭二

 

音楽 黛敏郎

 

撮影 姫田真佐久

 

エロ事師たち - Wikipedia

 

 

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