★★★☆☆
あらすじ
仕事や家族の事で多くの問題を抱えたセールスマンの男。戯曲。
感想
疲れ果てたセールスマンの物語。仕事で結果を出せず、旅回りにも疲れ果てた男。しかも成人した息子たちは親を安心させるような職業についておらず、心労はたまるばかり。そんな現在の姿と、回想シーンで見せる過去の成功したセールスマンとしてブイブイいわせていた姿の対照的な落差が物悲しい。
それからまず、当時の「セールスマン」という職業に対する認識が、今とはずいぶん違うのだろうなというのが、劇中から窺える。主人公は「何を売るかではなく、誰が売るかが重要だ」みたいなことを言っていて違和感があったのだが、どうやら今のCMタレントのような感覚でいるようだ。こんなに魅力的な自分が売り込んでいるのだから欲しくなるに決まっている、みたいな。だからタレントと同じで、歳を取れば人気に陰りが見えるし、そうなれば過去の栄光にすがりつきたくなるのだろう。
それでも自分の職業に無邪気に誇りを持てていたというのは羨ましい。今だと自分の職業に誇りを持っているなどと声高に言う人なんて、怪しい商売をしている人だけのような気がしてしまう。だがその誇りが驕りにつながり、子どもたちの今の体たらくを招いてしまった主人公。とはいえ実際のところ、そんなにこの主人公が子供たちに言い聞かせていたことは間違っていなかったのでは、と感じてしまっている自分がいる。世間を見渡してみれば、勉強ができるよりも、愛想よく皆の人気者でいた方が、コネがたくさんある方が、いい人生を送っているように見える。
主人公の住む家が、自然に囲まれた一軒家だったのが、やがて大きなアパートに囲まれた居心地の悪い家に変わっていったという描写は、栄華を誇った一家の没落する姿を暗に示しているかのよう。さらにこれはその後のアメリカの行く末を示唆しているようにも見える。しかも、その誇示していた栄華も実は虚飾だったのでは、というのがさらに気持ちを空しくさせる。どこかで間違えたかもと不安を覚えながら、それでも虚勢を張り、自分たちはすごいんだと言い聞かせてやってきたが、やがて厳しい現実に直面して打ちのめされる時が来る。そんなセールスマンの姿に、誰かであったり、どこかの国であったりが投影されて、色々と考えさせられる。
著者
アーサー・ミラー
登場する作品
関連する作品
映画化作品
北京におけるこの作品の公演記
この作品が登場する作品