★★★☆☆
あらすじ
登山中に転落死した男の妻を疑い、監視しているうちに好意を持つようになってしまった刑事の男。
感想
殺人の容疑者として監視していた女に心惹かれてしまった刑事の物語だ。彼女の容疑は、ひとりで登山中に転落死した夫に対するもので、状況的にどう考えても事故、あるいは自殺だろうと思ってしまうような案件だ。同行していたわけでもない彼女が殺すことが出来たとは到底思えなかった。女に興味を持った主人公がそれを言い訳にストーカー行為をしているだけに見えてしまい、あまり捜査の行方には関心が持てなかった。
捜査を通して主人公と女は互いを意識し合い、距離を縮めていく。意味深なやり取りが続く取調室でのシーンや、監視する主人公とそれに気付いている女の存在を確かめ合うようなやり取りなどは、妙に艶めかしくて官能的だった。ただそもそもの捜査自体に疑念を感じてしまっていたので、物語の推進力は弱かった。
そのまま捜査はおざなりで、二人のロマンスが中心になっていくのかと油断していたら、しっかりと事件にも動きがあって驚かされた。そしてロマンスとサスペンスの第二章とでも言うべき後半へと突入していく。
今や映画にスマホなどのハイテク機器が登場するのは当たり前だが、この映画ではチャットアプリや翻訳ソフト、それにスマートウォッチなどが効果的に使われている。しかもこれ見よがしに使うダサい演出ではなく、自然に、それこそスマートに用いられているのが印象的だった。これは製作者たちがちゃんと使いこなしているからなのだろう。
正直なところ、情報量多めの映像や演出に翻弄されてしまい、物語をうまく把握できなったところはあったかもしれない。最初はただその凄みを感じ取れた程度だったのだが、もう一度ざっと見直してみると、あちこちに大量の伏線やメタファーが散りばめられていたことに気付く。
月曜が早く来たように感じることもあると語る老女や、烏を埋葬するシーンなどは後の展開へとつながっていくものだった。それに、難しい言葉を簡単な言葉に言い直そうとしたり、韓国語と中国語のやり取りがあったりと、言葉を強く意識したシーンが多かったのも、ラストシーンへの伏線だった。
見るたびに新たな発見があり、その度に物語の解像度が上がっていきそうだ。よく練られたプロットで深みのある映画となっている。
スタッフ／キャスト
監督／脚本 パク・チャヌク
出演 パク・ヘイル／タン・ウェイ／イ・ジョンヒョン／コ・ギョンピョ／パク・ヨンウ／キム・シニョン
