★★★☆☆
内容
中国の小説家・思想家、魯迅が残した評論や随筆、講演録などを収録。
感想
皮肉や風刺、警句などが詰め込まれた随筆や評論が並んでいる。欧米の人が書いたものよりもスッと頭に入ってくるような気がするのは、やはり日本と同じアジアで、似た文化を持っているからなのだろう。序盤は特に切れ味鋭い文章が続く。ふむふむと頷いてしまうことばかりだった。
そんな中で、よく海外から「○○がやって来る」と危惧の声が上がることがあるが、あれは○○が怖いのではなく、「やって来る」の部分が怖いのだ、と言っていたのは面白かった。今の日本だと○○の部分に「移民」だったり「同性婚」だったり、かつてだったら(今も?)「共産主義」などが入るのだろうが、危惧の声を上げる人は別にそれが何だろうと何かが外からやって来ること自体を恐れているのだと結論付けている。確かに、とにかく新しいものなら何でも拒絶する人はいる。
これを様々な勢力が乱立し、右に左に揺れた激動の時代の中国を生きた魯迅が言っているから説得力がある。何が来ようととりあえず恐れ、とにかく否定する人たちを何度も目の当たりにしたのだろう。
民族のなかには、苦痛を訴えても役に立たぬので、苦痛さえ訴えなくなる民族もあります。そうなると沈黙の民族となって、ますます衰えてゆきます。
p155 「革命時代の文学」
また時代が変わる時の、世間の空気について述べていた個所も興味深かった。これら実体験から得ただろう考察は端々に見られる。
中盤くらいまでは面白く読めたのだが、講演録を収めた後半部分は取り上げるテーマが自分にはマニアックすぎてしんどかった。ここで語られている歴史や人物については、おそらく中国人やその時の観衆には一般常識なのだろう。だがそんな知識がない自分は、まずそれを把握しようとするだけで疲れてしまった。
ある本で引用されていたのが気になってこの本を手に取ってみたのだが、魯迅という人はこんな人だったのかと驚きがあった。この痛烈ぶりでは、敵が多かったというのも納得だ。昔教科書で読んだような記憶はあるが、彼の小説もちゃんと読んでみたくなった。
著者
魯迅
編訳 竹内好