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個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「ラブ&ポップ」 1998

ラブ&ポップ

★★★★☆

 

あらすじ

 仲の良い友達三人と水着を買うため渋谷で合流した女子高生は、一目惚れした12万円の指輪を購入するためにその日のうちに資金を稼ごうとする。

 

感想

 ひとりの女子高生の一日が過去の回想を交えつつ描かれる。序盤は主人公が自身の悩みや心配事を吐露しながら進み、いかにもな思春期の少女らしさがあった。このまま楽しい時間がいつまでも続くわけではないことを知っており、親友たちが次のステージに一歩踏み出していることに内心焦ってもいる。

 

 そんな主人公が見つけたのが高価な指輪だ。それを手に入れることで自分も何か変われるような気がしている。だから地道にバイトしてお金を貯めて…とならないのがすごい。欲しいと思った時に手に入れるようにしておかないと、何も手に入れられない人生になってしまうと恐れているかのようだ。

 

 

 だが一日で12万円を稼ぐのは、女子高生に限らず簡単なことではない。未成年の彼女に出来ることは限られていて、それは自ずといわゆる援助交際、売春となる。この時代の渋谷ということもあるのだろうが、それまで描かれてきた彼女たちの日常に、怪し気に声をかけてくる男たちがたくさん普通に現れることに少なからず驚かされていたが、お金が欲しい時にそんな男たちを利用しようと考えてしまうのは自然の成り行きかもしれない。主人公が何をするか分かった上で、友人たちが笑顔で送り出すのもなかなかすごい光景だった。

 

 しかし声をかけてくる男たちの目的が、必ずしも売春ではないのが興味深い。本当にただ一緒に食事をするだけだったり、作った料理を振る舞うだけだったり、吐き出したぶどうが欲しいだけだったりと、色んな願望があるものだなと感心してしまう。その欲望の捻じ曲がり具合が男たちの病み具合を表わしていると言えるのかもしれないが。

 

 主人公らは売春こそしないが、それまでも条件が合えば男たちの取引に応じていた。。お互い納得の上で共に幸せになるのだから悪くないなと一瞬思ってしまうが、この闇市場へ男は自由参加なのに対して、女子高生は強制参加とされてしまうのがつらい。そんな気がさらさらない女子高生にも日々男たちが付きまとう。

 

 なんとしても指輪を手に入れたい主人公は、売春も辞さない覚悟で男たちに接触を図る。なんとか売春は回避する方向で選んだ一人目はいいとして、二人目の男のチョイスにはちょっと疑問を感じてしまった。よりによってなんでそんな明らかにヤバそうな奴を選ぶのだ?と思ってしまったが、最初からヤバさを出している奴はその程度が分かるが、普通に振る舞っている奴が隠し持っているヤバさは読めない、という高度な判断があったのかもしれない。彼女なりのリスク管理だ。

 

 悲壮感が漂ってもおかしくない状況を明るく健気に乗り切ろうとする主人公の姿は痛々しかった。そして彼女の冒険は苦い思い出を残すことになる。文字通り高い授業料を払うことになってしまった。彼女たちに同年代の恋人はいたりするようだが登場することはなく、主人公が男たちが代表している世の中と対峙する物語となっている。

 

 最後はちょっといい話になっていたが、彼女たちがいくらリスク管理したところでこんなの運でしかないよなとも思ってしまった。当時売春をしていた女子高生たちが現在、何事もなかったかのように幸せに暮らしているのか、トラウマを抱えて後悔しながら生きているのかは、ヤバい奴に出会ってしまったかどうかでしかないような気がする。

 

 細かいカットをテンポよくつないだコラージュのような映像は、十代の不安定な心を表しているようにも、渋谷の不穏な喧騒を表わしているようにも見える。ダレることなく最後まで見られることが出来た。主人公らがまっすぐ前を見て、4人並んで闊歩し続けるラストシーンが印象的だ。

 

スタッフ/キャスト

監督 庵野秀明

 

原作 ラブ&ポップ―トパーズ〈2〉 (幻冬舎文庫)

 

出演 三輪明日美/希良梨/工藤浩乃/仲間由紀恵/三輪ひとみ/平田満/吹越満/モロ師岡/手塚とおる/渡辺いっけい/岡田奈々/森本レオ/LL BROTHERS(矢間敬視・矢間晶也)/岡安泰樹/島田律子/大沢健/鳥肌実/(声)三石琴乃/(声)林原めぐみ/(声)河瀬直美

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ラブ&ポップ

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  • 三輪明日美
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ラブ&ポップ - Wikipedia

 

 

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