★★★★☆
あらすじ
大阪のドヤ街で売春婦をする若い女は、仲介業者を外し、独力で商売することを決意する。82分。
感想
すごいタイトルだが、大阪の通天閣近くで売春婦をして暮らす女とその周辺の人物たちを描いた物語だ。何をするでもなく所在なさげに外でたむろする人びとが映し出されるドキュメンタリー風の映像は、まるで東南アジアのどこかの町のようだった。この地区は今でもこんな感じなのだろうか。
光の当たらないアンダーグラウンドで暮らしていることを示すかのようなモノクロ映像で、主人公らの様子が映し出されていく。この陰影のくっきりとした映像がなかなか味わい深く、時々グッとくる瞬間もある。特に、売春婦の母と時々やってくる情夫、そして知的障碍者の弟が暮らす実家のシーンは、色々な怨嗟が渦巻いているかのような禍々しさがあった。
しかしこの手の映画なのに白黒で余計な情報を排し、ファンタジーに浸れる要素を消してしまうのはすごい。作る側の野心やそれを作らせる人たちの豪気さを感じるし、それを受け入れる見る側の心の広さを感じる。皆に心の余裕があったということなのだろうか。それとも、これはこうあるべき、と言うような定義が今より曖昧だっただけなのか。
独立して仕事をすることにした主人公が、客を取るために街行く人に声をかけたり、嫌がらせの暴力を振るわれたり、家族への葛藤を見せたりする様子がリアリスティックに描かれていく。この主人公を演じる芹明香が抜群に良い。根性が座って気が強く、やさぐれた雰囲気が溢れていて目茶苦茶リアルだった。時にふと優しさを見せるところなども本当にこういう街にいそうで、本物っぽい。
アンダーグラウンドな街の姿をリアルに描き、このままどんよりとするような結末に向かうのかなと思っていたら、恋人が売春婦になってしまった男の空気人形のくだりではロックな雰囲気が出てきたり、終盤はどこか朗らかな人情劇的な雰囲気も出てきたりと、中盤以降に予想の出来ないバラエティに富んだ展開が立て続けに起きて面白かった。
ラストも意外とコミカルで、フフフと笑ってしまうような結末が待っていた。途中で一度映像がモノクロからカラーに変わるが、高く明るい場所に出たところでどのみち飛べるわけでなし、それなら住み慣れた場所で自分らしく生きていくだけさ、とでも言うような、開き直った前向きな気分で溢れており、明るい気分になれた。
今見ても全然古臭さを感じない映画だ。
スタッフ/キャスト
監督 田中登
脚本 いどあきお
出演 芹明香/花柳幻舟/夢村四郎/岡本彰/宮下順子/萩原朔美/高橋明/絵沢萠子/小泉郁之助/小林旦/庄司三郎/榎木兵衛/坂本長利/萩原実次郎/島村謙次/清水国雄
撮影 安藤庄平
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