★★★☆☆
あらすじ
日本近郊の海底調査を行っていた地質学者らは、異常な現象を目の当たりにして、日本に大災害が起きる可能性を危惧し始める。
感想
学者らが海底調査を行うシーンから映画はスタートする。正直、どんな状況なのだかはよく分からないのだが、それでも彼らのただならぬリアクションを見ていると、異常で深刻な出来事が起きているのだという事は分かって、息を潜めるような緊張感がある。その後の首相らを前にして、何が起こっているのか、その状況が説明されるシーンでようやく事情が分かるのだが、この時のプレゼンがとても分かりやすく勉強になった。よく出来ているので、このシーンを見て興味を持ち、地質学者を目指した人がいるような気がする。
やがて日本各地で頻発するようになる地震や災害。この特撮映像が非常によく出来ていて見ごたえがある。作り物であることは分かるのだが、なんとも言えず味わい深い映像だ。どうやって撮っているのだろうと、アート作品を鑑賞するかのようにじっくりと見てしまう。しかしこの頃はまだ時代劇で見られるような民家が残っていたり、関東大震災を経験した人がまだいたりと(一応今でもいるが)、なかなか感慨深いものがある。この映画を観た当時の人々の中には、その震災や戦時中の体験を思い出した人も多かったはずだ。
誰が主役というわけではない群像劇だが、首相役の丹波哲郎がいい演技を見せている。特に最悪のシナリオを聞かせられた時の、微妙に表情を変化させるシーンは、この人はこういう繊細な演技も出来るのだなと見直した。ただ自分が丹波哲郎を見くびり過ぎていただけなのかもしれないが。それから、小林桂樹演じる学者がテレビに出演し、討論相手に向かって「この御用学者が!」と罵り殴りかかるシーンはワイルドすぎて笑えた。藤岡弘の劇画そのままといった濃い顔も良い。
全体的には政府中枢部の人たちの動きばかりが描かれ、日本沈没を目前にした大衆の様子はあまり描かれない。元同僚に熱い思いをぶつける会社員とか、なぜか日本と運命を共にしようとする学者など、よく分からない人物描写も多く、ヒューマンドラマとしては大したことがない。これならその部分を大きく削って、2時間以内に収まる特撮推しのディザスター映画にした方が良かったような気もした。
日本がなくなり、世界各地に散らばった日本人たちはその後どうなるのだろうか?というラストの問いかけは、色々な想像が出来そうで興味深い。でも多分、どんな環境でも逃亡しない、使い勝手の良い理想的な外国人技能実習生のような存在になっているような気がしないでもない。世界中で重宝されて、こき使われてしまいそうだ。
スタッフ/キャスト
監督 森谷司郎
脚本 橋本忍
製作 田中友幸/田中収
出演
小林桂樹/藤岡弘/いしだあゆみ/滝田裕介/中丸忠雄/村井国夫/夏八木勲/高橋昌也/神山繁/中村伸郎/二谷英明/島田正吾
撮影 村井博/木村大作/富岡素敬
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