★★★★☆
あらすじ
両親が家業を継ぐことになり、東京でのモデルの仕事を辞めて田舎に引っ越してきた女子中学生は、そこでひとりの少年と出会う。111分。
感想
東京の少女が田舎の少年と恋に落ちるラブストーリーだ。まず主演の菅田将暉と小松奈々が、田舎の中学生にはあり得ないようなヴィジュアルだ。そんなわけないだろうとツッコみたくなるところだが、それが二人の恋の特別感を際立たせているとも言える。
小松奈々演じる主人公が恋に落ちるのは、地元の有力者の跡取り息子で、傲慢に振る舞う少年だ。分かりやすく目立つ存在だが、主人公はそんな少年が見せる万能感に惹かれたのだろう。立ち入り禁止の神聖な場所とされる海辺でも、悠々と泳ぐような恐れを知らぬ少年だ。
元モデルの主人公も、田舎では注目される存在である。周囲が恐る恐る声をかけるだけの中で、少年は自分にないものを彼女に感じて惹かれ、万能感ゆえに手に入れようとする。そうして二人は付き合い始める。
完璧とも言えるカップルとなった二人だったが、男に襲われた主人公を少年が助けられなかったことから、その関係に溝が生じてしまう。なんだって出来ると万能感に満ちていた少年にとっては、彼女を守れなかったこの事件は屈辱的な出来事だった。自信を失い、彼のナイフのようなきらめきは影をひそめる。
だが万能感を打ち砕かれる経験は、思春期の若者なら誰しもが通る道だ。むしろ少年はそれをよく維持できた方だろう。それに、素直に敗北を認めているのは潔い。
世の中、特にSNSには、完全に負けているのにそれを認めず、負けていないポーズを取ることで万能感を演出し、皆の注目を集め続けようとしているみっともない人間はたくさんいる。それに比べたら、それをしない少年は立派だ。少年への気持ちがあきらめきれない主人公は、彼に元の姿を取り戻して欲しいと願っている。
自民・杉田水脈氏「言論弾圧」 男女平等否定への批判に:東京新聞 TOKYO Web
一方で主人公には芸能界復帰の誘いがあり、戻るべきかどうかで悩んでいた。遠くへ行きたい主人公と、良くも悪くも地元で生きることを宿命づけられている少年は、別れる運命だったと言えるのかもしれない。無意識にそれに気づいていたからこそ、二人の関係には激しさがあったのだろう。
クライマックスは、そんな二人の想いが込められた壮絶なものとなる。二人の思い出を輝かしいものにするための儀式だ。それさえあれば、一人でも怖れることなく生きていける。
主演の二人の他、常に主人公を思いやるも報われない、いかにも少女漫画にいそうないい奴キャラを演じた重岡大毅や、地味ながら実は支配欲が強そうな同級生役の上白石萌音と、皆が瑞々しい演技を見せている。映像や音楽も印象的で、インパクトのある恋愛映画だ。
スタッフ/キャスト
監督 山戸結希
脚本 井土紀州
出演 菅田将暉/小松菜奈/重岡大毅/上白石萌音/志磨遼平/斉藤陽一郎/市川美和子/ミッキー・カーチス
音楽 坂本秀一
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