★★★☆☆
あらすじ
赤茶けた髪、そばかすだらけの顔で「にんじん」とあだ名される少年の物語。連作短編小説。
感想
「にんじん」と呼ばれる少年と、その家族を中心とした小話が連作で綴られる。少年を主人公にした物語なので、ほんわかした雰囲気の物語なのかと思っていたら、全然そんな風になっていなくて戸惑った。
何よりも主人公は家族、特に実の母親から嫌われている。悪質な嫌がらせやひどい仕打ちをされていて、読んでいるとだんだん嫌な気分になってしまう。今なら普通に虐待だ。しかも、そんな風に家族に嫌われる理由や原因も明らかにされないので、困惑するばかり。著者の自伝的物語と言えるそうなので、書いてる本人もその理由が分からなかったのだろう。
家族に冷たくされる主人公。しかし、なんて不幸なんだと自己憐憫に陥って、同情を誘うような展開になりそうなものなのに、そうはしない事に感心する。つらい仕打ちに泣くのではなく、上手くやり過ごす術を身に着け、こんな事なんでもない、平気だという態度を取ろうとする。ある意味では処世術を学んで成長していると言える。
そんな健気な主人公だが、彼は彼で結構ひどい。
にんじん「君は貧乏で、僕は金持ちだから、僕は君のことをばかにしてもおかしくないんだ。でも、大丈夫。僕は君のことを大事に思ってるから」
文庫版 p184
近所に住む女の子にこんな言葉を吐いたりする。むしろ、そんな環境にいるからこそ、こうなってしまうのだろう。心が歪んでいる。虐待を受ける子供の闇が垣間見えるような気がした。
そして、物語の中で頻繁にみられるのが、残虐な表現だ。狩った獲物の息の根を止める仕事をしたり、猫を殺したり。今と違って、食べるために動物の命を奪うことが身近な時代だったという事もあるのだろうが、しかし描写は明らかにそれ以上の関心をそこに寄せていることが分かる。
なかなか死なない鳥や体が欠損しても生き続ける猫など、それを描く著者の目に奇妙な執着心を感じる。これも虐待の影響があるのだろう。それから、刺さった釣り針を取るために、指の肉をナイフでえぐる描写は読んでるだけで痛くて、かなりのつらかった。
ハードモードの少年時代を生きる主人公。生き抜く知恵を身に着けて、そこで生き延びることは出来そうだが、でもまともな大人にはなれないのだろうな、と思ってしまった。サイコパス的な雰囲気をまとっていそうだ。モデルとなった著者自身はどんな人間だったのだろうか。いろいろ想像してしまう。
スタッフ/キャスト
ジュール・ルナール
登場する作品
「La Henriade(アンリヤード)」
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