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「トラベラー」 1974

トラベラー

★★★☆☆

 

あらすじ

 勉強もせず、学校をさぼってばかりの少年は、サッカーの試合を見るためにテヘランへ行くことを計画する。

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 アッバス・キアロスタミ監督。イラン映画。72分。

 

感想

 田舎の小学生の子供が、首都テヘランで行われるのサッカーの試合を見に行こうと画策する物語だ。

 

 あらすじだけを聞くと、無邪気な子供の可愛い冒険物語かと思ってしまうが、実際は全然違う。主人公は勉強もせず、学校もサボりがちな少年だ。テヘラン行きの資金を稼ぐためにまずやったのは、親の金を盗むことだった。さらには家のガラクタをかき集め、店を回って売りつけようとする。微笑ましさゼロのタチの悪さだ。

 

 

 主人公が金を盗んだことに気付いた母親は、学校の先生に相談する。ここで彼女が「自分は読み書きができないので、子どもがちゃんと勉強しているのか分からない」と訴えていたのは印象的だった。すでにこの時点で子が親を越えてしまっており、壁に隔てられた理解できない存在になっている。

 

 世界中のどこの家系にも、どこかの時点で親は読み書きできないのに子はできる、という親子がいたはずだ。そう考えると感慨深いものがある。文盲の彼らにしたら、自分の分からないことを子供に教えている先生なんて神様くらいすごい人に見えるのだろう。尊敬して妙に崇めてしまうのも分かるような気がする。

 

 母親に頼まれた教師は、親の金を盗んだことを自白させようと主人公に体罰を行う。普通なら反省して謝るタイミングだが、主人公は痛みに泣き叫びながらも嘘をつき続け、頑なに認めない。悪い意味で根性が据わっている。

 

 その後も写真を撮ると騙して金を取ったり、皆で使っているサッカーセットを売り飛ばしたりして、なんとか資金を稼いでテヘランに向かう。

 

 テヘランに着いてからは、あまり知ることのない当時のイランの日常が垣間見られるのが興味深い。行列に並ぶと常に後ろから小突かれるとか、イランにも転売屋(ダフ屋)はいるとか、芝生で他人同士が妙に近い距離間で昼寝しているとか、気になるシーンばかりだった。とはいえ、これはきっと人間が都会化する過程に見られる光景で、日本にもこんな時期があったのだろうという気はする。

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 都会にひとりでやってきた少年だが、全然臆することなく好きなように動き、思ったままに話しかけていて感心してしまう。やりたいことを実現してしまう行動力は大したものだ。経緯が経緯だけに素直に称える気にはなれないが、主人公にも心の奥底には罪悪感があることを、彼が昼寝で見る夢が教えてくれる。その罰が当たったようなラストが味わい深い。

 

 学校へ行かなくても学べることはいっぱいあるとも、やはり学校でちゃんと学ぶべきだとも思える映画だ。ただ、後ろめたさを感じないためには後者の方がいいのだろう。そして勉学だけでなく、倫理観も大事だ。

 

 終盤に主人公が、ガラスの向こうのプールにいる少年に話しかけるシーンが象徴的だが、都会と田舎、親と子、教育や道徳心の有無など、両者の間にある見えない壁の存在を感じさせる物語でもある。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本    アッバス・キアロスタミ

 

出演 ハッサン・ダラビ/マスウード・ザンドベグレー

 

トラベラー

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  • ハッサン・ダラビ
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トラベラー (映画) - Wikipedia

 

 

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