★★★☆☆
あらすじ
里子に出された年の離れた妹を気にかけながら芸者として働いてきた女は、夜汽車で出会った一人の男と恋仲となる。
感想
天涯孤独の姉妹の話ではあるのだが、その二人の前に登場した萩原健一演じる男の駄目さ加減が際立っている。自分の力で成功すると言いながら結局親に頼ろうとするし、親のヤクザ稼業なんか継がないと言いながら結局継ぐし、親の仇は討たないし、仕事は出来ないし、恋人の妹には気分で手を出すし。
正直、この男に関わらなければ、姉妹は幸せに暮らせていただろうにと思ってしまった。でも、好きになった男がまともだと、女はすぐに幸せになってしまって物語にならないから仕方がない。男が面倒事を起こすからこそ、女の見せ場がやってくる。
なんだかそう考えると、愛情表現を目一杯したい人にとっては、平凡で堅実な相手だとその機会があまりないので物足りないのかもしれない。いわゆる駄目男に惹かれる女性が世の中に一定数いるというのは、そういうことなのか。お金を渡したり身を削ったりすることで、相手への愛情表現がたくさんできる。こんな事までするなんて、自分はとても相手を愛しているのだな、と実感できる。そういう人にとっては、男が問題を起こせば起こすほど、気持ちよくなれるのかもしれない。
ただこれは恋愛事なので、望んでいなくてもそうなってしまう事はある。主人公はそちらのタイプ。好きになってしまった以上は、男のために出来る事は何でもやる。
終盤に主人公が、妹のために指を詰めるシーンがある。ヤクザの親分に「男の世界はこんなもので済んじゃうんですね」というセリフは凄みがあった。確かに女性の方がもっと過酷な事が起き得るよなと思ってしまった。そんな世界を生きてきた彼女が言うからこそ響く言葉だ。
だからなのか、やくざや権力者たちといった男たちの世界はあまり丁寧に描かれていない。男の世界なんて単なる子供の喧嘩の延長線上でしかないと、敢えてそうしているようにも見えた。そして、実際それでなんとなく起きている事が分かってしまっている自分がいる。どことなく間の抜けた男たちの中で、唯一、小林稔侍演じる男が的確に仕事をこなしていて、その仕事人ぶりがなぜか笑えてくる。
女たちの情念は伝わってきて、それぞれのシーンも悪くないのだが、いかんせん長すぎた。あまり映画を短くしようという努力も感じられず、女優の裸が見られるからいいだろうというような甘えが感じられる。間延びして、終盤の大事なシーン辺りではだいぶダラけてしまい、あまり集中できなかった。
スタッフ/キャスト
監督 山下耕作
脚本 松田寛夫/長田紀生
原作 「夜汽車・岩伍覚え書 (ちくま文庫)」所収「夜汽車」
出演 十朱幸代/秋吉久美子/萬田久子/白都真理/萩原健一/荒勢/丹波義隆/片桐竜次/浜田晃/小林稔侍/阿藤海
撮影 木村大作