★★★☆☆
あらすじ
世界中を旅した後、フランスの港町に居を構え、ある人物の伝記を書くために図書館に通う男。
感想
金に不自由せず、ただ自分の関心のままに図書館に通い、ある人物のことを調べる主人公の日々が日記形式で綴られていく。劇的な出来事はほとんど起こることなく、主人公の思索がメインとなっている。
その思索から見えてくるのは、主人公が感じている人生への希望の無さ。世界中を旅したがそれは振り返ることでしか物語とならない。つまり人生を前を向いて歩いている時は何でもなく、それを振り返った時にあれは冒険だったと思うだけ。それならば前を向いて生きているときはただ生きているだけでしかないという事で、そこにどんな希望を持てばいいのだろうか、という考えだ。
世の多くの人はそんなことを考えもせず日々を生きているわけで、こんなことを考えなければ気が済まない人は大変だなと思ってしまう。そしてそれをすることで人生に希望を失ってしまうなんて、思考能力が高いのも考え物だ。生活に追い立てられておらず、ある意味で暇を持て余しているからともいえるのかもしれない。
そんな感じで暗く物悲しいトーンが続き、そのまま終わっていくのかと思いきや、最後に主人公の中に希望の光が灯り、突如ポジティブな雰囲気が満ちる。なので、わりと読後感は悪くない。
本文の内容は難解ではあるが、かといって手も足も出ないというほどではなく、それが逆に、分かるようで分からないというもどかしさを感じさせられてしまった。正直、あまり理解できなかったというのが本当の所だが、最後の訳者による解説がかなり理解の助けになった。
余生のように残りの人生をあきらめて生きようとしていたが、自ら物語る作品を作るためであれば生きる意義があるのではないかと気づき、希望が生まれた、という事か。
著者
ジャン=ポール・サルトル
訳 鈴木道彦
登場する作品
「泥炭と泥炭層」 ラルバレトリエ
「ヒトパデーシャまたは有益な教え」
「コードベックの矢」 ジュリ・ラヴェルニュv
「青空(ブルースカイ)」
「ケーニヒスマルク」 ピエール・ブノワ
「わが息子たちへの書」 ポール・ドゥーメル
「皇帝ジョウンズ・毛猿 (1953年) (岩波文庫)(皇帝ジョーンズ)」
「皇室の菫(すみれ)」 アンリ・ルーセル
この作品が登場する作品