★★★★☆
あらすじ
現代アートに偉大な功績を残したアーティストの生涯。
感想
一人のアーティストの人生が、時おり評伝風の文章も織り交ぜながら語られていく。凄いのがその架空の芸術家が生み出す作品の描写。当然存在しないものなので見たこともないのに、ありありとそれを思い浮かべることが出来る。地図を撮影した写真とか、実在の人物をモチーフにした絵画など、ありそうではあるが凡庸ではなく、評価の高い芸術家だという事にリアリティをもたらしている。
あまり人と関わろうとせず、恋愛や家族にも大きな関心を持たなかった主人公。裕福ではあるが恵まれない家庭環境に育ったせいもあるのかもしれない。そしてそんな彼が唯一興味を持てたのがアート。アートというよりも自己表現といった方がいいかもしれない。人間は金のために動くと言っても限度があって、そこに情熱がなければ心を失っていく。彼の父親がその代表と言えるだろう。
主人公の人生には普通にアートがあり、苦労することなく自然と主題が見つかり、新たな作風へと移っていくのが印象的だった。彼に才能があり、それで莫大な富を得たから無理をしなくてよかったともいえるが、もしそうでなくても細々と活動を続けていたような気がする。
そして、話の中に登場するのが著者ウエルベック当人をはじめ、実在のフランスの著名人たち。本人はともかく他の実在の人物たちを登場させて問題は起きなかったのだろうか。さすがにとんでもない事件は、自分自身に起きたことにしているが。実在の人物を登場させることで物語にリアリティを持たせ、その上で自身の姿勢を表明しようとしたのかもしれない。主人公は彼に親しみを覚えていた。
アートの重要性に気づいているのはもちろん主人公だけではない。その表れが世間の田舎への関心の高まりだろう。金のために人間味の薄い仕事をしなければならない都会を離れて、自分らしさを大事にした仕事や生活をしようとする動き。
事件を担当した刑事は、そんな彼らとは正反対に思えるが、彼でさえ、つまらない動機ばかりの事件の中にも、どこかにアート的なものがあるのではと、密かに期待する部分もあった。アートなんて無縁と思っていても、実際はどこかで求めている。人間になくてはならないものなのなのだろう。そしてそれが無ければ人間ではなくなってしまうものでもあるのかもしれない。
いつものウエルベック作品よりは刺激の少ない作品ではあったが、いつものように読み応えのある内容だった。
著者
ミシェル・ウエルベック
登場する作品
「Au secours pardon(助けて、ごめんね)」 フレデリック・ベグベデ
「Le Blues Du Businessman(ビジネスマンのブルース)」
A French Novel (English Edition)
「Le Sens du combat - Prix de Flore 1996(闘いの意味)」
「La poursuite du bonheur(幸福の追求)」
「Renaissance(ルネサンス」
「La France m'épuise(フランスにはうんざり)」 ジャン=ルイ・キュルティス
「La Quarantaine (四十歳)」 ジャン=ルイ・キュルティス
「Le Jeune couple(若いカップル)」 ジャン=ルイ・キュルティス
物の時代 小さなバイク「物の時代」
フリッツ・ラング コレクション/クリティカル・エディション ドクトル・マブゼ [DVD]
「La France des saveurs(味わいのフランス)」
「La France en fêtes(祭りのフランス)」 ジャン=ピエール・ペルノ
「Pour tout vous dire...(われらが地方のただなかへ)」
「Les magnifiques métiers de l'artisanat(素晴らしき職人仕事) 全2巻」
「The Return of Don Quixote(ドン・キホーテの帰還)」
「Spirou und Fantasio: Schuber: Spirou und Fantasio von Franquin(Spirou et Fantasio)」
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