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「バイス」 2018

バイス (字幕版)

★★★★☆

 

あらすじ

 2001年のアメリカ同時多発テロ時のアメリカ副大統領で、その後の世界に多大なる影響を与えたディック・チェイニーの伝記映画。

 

感想

 ディック・チェイニーの若い頃から副大統領を務めた頃までの半生が描かれていく。だがそこから彼がなぜ政治を志したのか、そして何をやりたかったのかは全く見えてこない。でもこれはきっと脚本が悪かったとかそういう話ではなく、ただシンプルに彼にはそんなものは何もなかった、ということなのだろう。強いて言えば権力を手にしたかった、ということか。有力政治家、大企業一族、戦争など、権力の匂いがするものがあれば何でも、魅力的な毛バリに誘い込まれる川魚のように食らいついていく。

 

 しかしそんな彼も若い頃は酒とケンカに明け暮れるダメ人間で、優秀だった妻が彼の尻を叩いて出世させていったというのは驚きだった。クリントン大統領と夫人のヒラリーの関係もそんな感じだったし、アメリカでも内助の功というのは割とよくあるということなのだろうか。

 

 ただ日本のように夫のために黒子役に徹するというよりは、本当は自分が世に出て行きたいのに女性差別のせいでそれが出来ないからという理由が大きいようだが。でもそう考えると、夫を操って出世させ、その妻として社会に出て行く、というのは単純に自分が出世するよりもさらにとてつもなく困難な事で、相当な野心とかなりの能力がないと出来ない。

 

 911テロ後のチェイニーの暴走ともいえる傍若無人ぶりを見ていると、理想や信念を持つ政治家よりも、そんなものはなく権力の掌握だけを望む政治家の方が悪い意味で強いのだなと実感する。誠実な政治家は様々な案件を己の信念に照らし合わせて政治判断し、時にはそれによって不利な立場に追い込まれることもあるが、権力掌握が目的であれば何も考えることなくただ強い立場に立てる方を選ぶだけだ。マーケティング会社がお勧めする耳障りの良い言葉で国民を騙す方法を採用する事にも躊躇しないだろう。そしてそんな人間ばかりの競争を勝ち抜いた者がトップに立ったとしたら、それに太刀打ちするのは相当難しい。なんだか世の中の嫌な部分をまざまざと見せつけられた気分になる。

 

 

 もはやすごいのが当たり前で、触れなくてもいいかなと思わせてしまうチェイニーを演じるクリスチャン・ベールの役作りは、でもやっぱりすごい。特に副大統領の頃の老齢の風貌なんて本当にクリスチャン・ベール?と疑ってしまうほどだった。その他の登場人物、ブッシュ元大統領やライス元国務長官、ラムズフェルド元国防長官なども良く似ていたが、こちらはどこか政治風刺コメディのキャラっぽい雰囲気があった。

 

 映画自体も重厚な伝記映画というよりもどこか風刺コメディぽい作りになっており、マイケル・ムーアの映画のようなエンターテイメント感がある。時々挿入されるそのコミカルな演出は確かに面白いのだが、今、他国の政治を笑っていられるような状況ではないんだよなという気分になってしまうのが困る。映画を観ながら日本の様々な政治家の顔が思い浮かんでしまった。日本にもチェイニーのやったことの影響が及んでいるということなのだろう。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本/製作 アダム・マッケイ

 

製作

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デデ・ガードナー/ジェレミー・クライナー/ミーガン・エリソン/ケヴィン・メシック/ウィル・フェレル

 

出演 クリスチャン・ベール/エイミー・アダムス/ケイリー・スピーニー/スティーヴ・カレル/サム・ロックウェル/タイラー・ペリー/アリソン・ピル/エディ・マーサン/ジャスティン・カーク/リサ・ゲイ・ハミルトン/ジェシー・プレモンス/ビル・キャンプ/リリー・レーブ/シェー・ウィガム/タイラー・ペリー/アルフレッド・モリーナ/ナオミ・ワッツ

 

バイス (字幕版)

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  • クリスチャン・ベール
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バイス (映画) - Wikipedia

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登場する人物

ディック・チェイニー/リン・チェイニー/ドナルド・ラムズフェルド/ジョージ・W・ブッシュ/メアリー・チェイニー/コンドリーザ・ライス/ジェラルド・フォード/リズ・チェイニー/コリン・パウエル/ヘンリー・キッシンジャー/ジョージ・H・W・ブッシュ

 

 

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