★★★☆☆
あらすじ
ウクライナ出身の女は、アメリカで産んだ子供と共に詐欺をして生計を立てていたがやがて逮捕され、子供と離れ離れになってしまう。
原題は「Bringing Up Bobby」。95分。
感想
10歳の息子と共に詐欺で生計を立てている主人公の女。冒頭はそんな詐欺の様子が描かれるのだが、なかなかのやりたい放題ぶりで、息子も悪ふざけをしてばかり。本人たちは楽しそうだが、見ているこちらとしては手放しでは楽しめない。この後、たとえ良い話になっていったとしても、素直には喜べないなと警戒してしまう。だから彼女が、ちゃんと逮捕された時は少し安心した。
そして出所後に主人公が、知り合いの大金持ち夫妻の養子となっていた息子に会いに行くようになってから、様々な問題が浮き彫りになってくる。悪ガキだった子供が大金持ち夫妻の下で素直になっていたのは驚いたが、やはり子供というのは保護者をよく見ているのだろう。母親が戻ってきた途端、この母親なら許容するだろうと元のわがままな子供に戻ってしまった。
子供はただ純粋な気持ちで、かつての母親の姿を求めている。しかし、それが息子のために更生しようとする主人公の足を引っ張ることになり、また子供にとっても良くない。主人公にとっては、これまでやってきた悪事の因果応報、自業自得といったところだろう。環境の影響がどれだけ大きく、またそれを変える事がいかに難しいのかがよく分かる。
この映画はぱっと見では詐欺師親子の悲しい話でしかないが、もっと大きな視点で見ると、アメリカの異邦人を描いた物語と捉えることも出来る。主人公がまともな生活を送ろうとした時に出会った勤め先の同僚や金持ち夫婦のメイドは、皆、彼女と同じような移民ばかりだった。きっと移民が見るアメリカは、普通のアメリカ人が見ているアメリカとはまた違ったものなのだろう。
訛りのある英語を話す主人公は、時にはイタリア人やフランス人のフリをすることはあるが、アメリカ人のフリをすることはない。彼らにとってアメリカは、いつまで経っても異国の地なのかもしれない。映画で使われている曲はどれもなかなか良かったが、ウクライナ語で歌われる英語曲のカバーが使われていたりして、異邦人の目でアメリカを見ているような感覚になる。
それから、主人公に対する金持ち夫婦の寛大さも印象的だったが、それは彼らが移民ではない普通のアメリカ人で、さらにはお金があるという心の余裕から来ているものだろう。移民たちがそんな余裕を手に入れるには、きっと子供や孫の世代まで待つ必要があるだろうし、幸運にも恵まれる必要がある。そう考えると、移民がいかに大変で苦労を強いられるものなのかが実感できる。
ラストは主人公の苦渋の決断が描かれる。だがどう考えてもその後に事態が好転するようには思えず、あまりに安易すぎる閉幕に不満が残った。
それから邦題が適当過ぎてやる気がまったく感じられず、逆にすごい。
スタッフ/キャスト
監督/脚本/製作 ファムケ・ヤンセン
出演 ミラ・ジョヴォヴィッチ/ビル・プルマン/ロリー・コクレーン/マーシャ・クロス
音楽 ジャンキーXL