★★★☆☆
あらすじ
ある犯罪者の運び屋をしていたことがバレてしまったスチュワーデスは、捜査官に捜査の協力をするよう持ちかけられる。
クエンティン・タランティーノ監督の映画「ジャッキー・ブラウン」の原作。
感想
無罪放免をエサに捜査に協力を求められた運び屋のスチュワーデスが主人公だ。捜査対象になっている雇い主の犯罪者には裏切ったのではと疑われ、身の危険も感じている。そんな板挟みの状況の中で、一か八かの賭けに出た女の姿が描かれていく。
保釈金融業者やFDLE(フロリダ州司法局)、ATF(アルコール・タバコ・銃器取締局)など、馴染みのない組織の人間が主人公と関わるようになる。まずそれぞれの組織の役割や違いを把握するのがしんどくて、若干混乱してしまった。映画を見ていると割と目にする組織ではあるが。主人公は、これら組織の者たちに加えて、雇い主の犯罪者やその愛人たちなど、主人公に関わる多くの人たちの思惑を冷静に見極め、それらを利用しながら自らの進むべき道を切り拓いていく。
殺されるか、刑務所に入るかの切羽詰まった状況にもかかわらず、彼女の言動は常にクールだ。犯罪に関与していたとはいえ、ただのスチュワーデスに過ぎない彼女がなぜそんなに根性が座っているのか解せないところがあるが、彼女が40代半ばの中年女性だというのがミソなのかもしれない。人生の酸いも甘いも噛み分けて、多少のことでは動じなくなった。それでいてもう若くないことに自覚的で、一発逆転を狙いたくなるような焦りもある。これまでの経験と開き直りが、彼女を大胆にさせているのだろう。
そして中年と言えども、彼女がイイ女だというのも大きい。若い頃ならともかく、ある程度の年齢を重ねてもイイ女でいるのは簡単なことではない。多くの女たちが歳を重ねる過程で何かと引き換えに捨てていったイイ女の要素を、彼女は捨てることなくキープしながら生きてきた。それだけでも彼女の強さが表れていると言えるだろう。それにしても、主人公と関わる男たちが皆口々に「イイ女だ」と口走るのは可笑しかった。
物語は結末に向かって直線的に進むのではなく、寄り道を繰り返しながら展開される。その寄り道での各エピソードが面白く、それを楽しみながら読み進めるような構成となっている。いきなりいなくなったり、急に人を殺したりと、変なところで余計な動きをしてしまう登場人物たちの人間味あふれる姿には笑ってしまう。
保釈金融業者は仕事に嫌気がさし、もう若くない愛人は将来のことを真剣に考え始めるなど、主人公以外の者たちも人生の岐路に立っている。転機を迎えた者たちの人間ドラマにもなっていて、痛快と言うよりもしみじみとした味わいを感じる物語に仕上がっている。
著者
エルモア・レナード
登場する作品
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映画化作品
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