★★★★☆
あらすじ
韓国との国境近くで漁をして暮らす北朝鮮の男は、ある日事故により国境を越えてしまい、韓国側に捕らえられて取り調べを受ける事になる。
感想
妻と娘と共に、貧しくも幸せな生活を送っていた漁師の男が、仕事中の事故が原因で韓国側に捕らえられてしまった悲劇。スパイ容疑で厳しい取り調べを受ける事になる。脱北する気だったらならまだしも、そんな気はさらさらなかったので、これは辛い。韓国側も上陸するまで見てないで、国境を越えた時点で本人の意思を確認して、脱北する気がなければそのまま戻してあげれば良かったのに、と思ってしまった。
韓国側の取り調べは時に度を越したものになることもあるのだが、一応は駄目なことだと認識していて、密室でバレないからやりたい放題とは思っていないようなので、まだましな方だろう。皆で忖度して隠ぺいするのではなく、ちゃんと不正を正そうとする倫理観をそれぞれが持ち合わせている。
ようやくスパイ容疑が晴れたと思ったら、今度は亡命のための誘惑が始まる。正直、住む所やお金が支給され、仕事も探してくれるなんて最高だが、北朝鮮に家族を残してきている状況では受け入れるのは難しい。こっちで新しい家族を持てばいいなどと、平気な顔をして言ってくる人間の神経が良く分からない。
主人公は、同じく取り調べを受けていた脱北者の男の頼み事を聞いてやったことで、再度スパイだと疑われる事になってしまう。ただ、この脱北者が主人公にトイレで話しかけ、さらに逃走を図ったその途中で頼みごとをするというのは、あまりにもわざとらしく、韓国側が仕掛けた罠だろうと思っていたのだが、どうやらそうでもないらしいことにちょっと驚いた。単純にミスなのだとしたら、危機管理がガバガバすぎる。
なんとなくジョージ・オーウェルの小説「1984」のように、あんなに家族の元に帰りたがっていた主人公なのに、様々な工作の結果、最終的には家族を捨てて、韓国で新しい家族の下で暮らしていく、という「転向」の物語になってしまうのかと、嫌な予感がしていたのだが、そうはならなくてホッとした。彼のスパイ容疑は晴れ、北に戻される事になる。
ただ、北朝鮮に戻ってもまっすぐに家族の元に戻れるわけではない。こちらはこちらで厳しい取り調べを受ける事になる。誤って国境を越えただけで、どちらの国からも疑われるようになってしまうなんて、とんでもない災難だ。それでも何とか疑いが晴れ、ようやく家族の元に帰れる事になった主人公。だが、これまで色々と見過ぎてしまった男には、もはや単純に喜べるハッピーエンドではなくなってしまった。
家族のことだけ考えて生きてきたのに、国家に翻弄されてしまった主人公。自身を誇示したがる国家はクソだが、それにもまして、何かというと個人より国家を持ち出す人間がクソだという事が良く分かる。彼らは国家の名を利用して、個人の願望を叶えようとしているだけだ。
面白いのだが、精神的にはなかなかしんどい映画だった。主人公の事を思いやりを持って見つめ、何かと助けようとした警備担当の若い警察官の存在が唯一の救いだった。しかしこんな結末を迎えるのだったら、転向して韓国で幸せに暮らしたほうが良かったのかも、と思わなくもない。
スタッフ/キャスト
監督/脚本/撮影 キム・ギドク
出演 リュ・スンボム/イ・ウォングン/キム・ヨンミン/チェ・グィファ/ソン・ミンソク/イ・ウヌ
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