BookCites

個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「流離の岸」 1956

流離の岸

★★☆☆☆

 

あらすじ

 母親にわだかまりを覚えながら育った少女は、やがて医者の男と付き合い始める。

 

感想

 幼少期の主人公が一旦実家に預けられ、再婚していく母親を見送るシーンから映画は始まる。しばしの別れの挨拶を交わそうとする母親から隠れて姿を見せず、その後物陰からこっそりと旅立ちの様子を見守る主人公は、子供ながらに相当ひねくれていることが分かる。その後も再会した母親につらく当たり、義理の兄とは喧嘩したりと頑なだ。

 

 成長して大きくなった後も、友人に平気で嘘をついたり、約束を直前で破ったりとおかしな言動は変わらない。後から考えると、幼少期に母親に見捨てられたトラウマを表わしていたと想像できるが、その時は普通に心の問題を抱えた子供にしか見えなかった。そもそもまともだった時やおかしくなっていく過程が描かれていないので、判断できない。

 

 

 やがて主人公は友人の兄と恋に落ちる。だが、ぎこちない対面シーンが数度あっただけなのに、いつの間にか熱烈に愛し合っていることになってしまっていて驚いた。まったくそんな様子は窺えなかったが、彼らの仕草や態度から読み取らなければならなかったのだろうか。もっと分かりやすい表現が欲しかった。

 

 このあたりまでは、今とは感覚の違う昔の話だからと鷹揚に構えていたのだが、中盤以降からは登場人物らのやることなすこと、言ってることが本格的に理解できなくなってくる。

 

 主人公と暮らし始めた男の秘密が明らかになってそれが問題になるのだが、なんで男がそんな大事なことを隠しておこうと思ったのか、なんで友人は知っていたはずなのにそんな兄を紹介しようと思ったのか、と疑問だらけだ。

 

 それを知った主人公は、よくそんな瞬間湯沸かし器みたいな反応が出来てしまうなと感心してしまうほどの激しさで応じる。そして、事情を聞かされた主人公の家族の意見や問題の相手の言い分も、すべてがピントがずれているように思えて仕方がない。理解できないことばかりが続くので、なんなのだこの話は?と段々とイライラしてきた。

 

 重要なことを黙っていた男に問題はあるにしても、冷静に判断するとそこまで深刻になるようなことではなく、粛々と処理をしていけば自然と解決する話のはずだ。それなのになぜか皆がドラマチックなリアクションをしてしまうから大げさになってしまう。

 

 映画のテーマの、子供に迷惑をかける母親のようにはなりたくない、という主人公の想いがそもそもわかりづらく、描き方を失敗してしまっているように感じる映画だ。終盤の主人公の激情の空回りぶりには空虚さがあった。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本 新藤兼人

 

原作 流離の岸 (角川文庫) (1953年)

 

出演 北原三枝/乙羽信子/村瀬幸子/三國連太郎/金子信雄/殿山泰司

 

音楽    伊福部昭

 

流離の岸

流離の岸

  • 北原三枝
Amazon

流離の岸 - Wikipedia

 

 

bookcites.hatenadiary.com

bookcites.hatenadiary.com