★★★★☆
あらすじ
供述が二転三転する殺人犯の弁護を引き受けることになった弁護士。124分。
感想
主人公は真実や正義よりも、裁判を有利に進めることを重要視する弁護士だ。そんな彼が受け持つことになった依頼人は、供述が二転三転し、死刑になりたくないという必死さも感じられず、どうにも真意が読み取れない殺人犯だ。訝しく感じながらも、主人公は自身の信念に基づき、裁判の準備を進める。
主人公が何度も犯人と接見を繰り返すうちに見えてくるのは、実は二人はよく似ているという事だ。生まれてこない方が良かった人間だっている、人間の運命なんて決まっている、報われない事ばかりだ、などと語る犯人に主人公は共感を示している。立場は違うが、見ているものは同じだ。面会室で左右対称に二人が向かい合う姿が印象的だ。
そんな犯人に興味を示す主人公。いつの間にか裁判優先の信念は揺らぎ、犯人の見ている世界を見ようとするようになっている。次々と新しい事実が明らかになり、さらには犯人の主張の急変と目まぐるしく状況が変わる中、主人公はついに新たな決意を固める。
被害者の娘が証言する日、雨の日の裁判をきっかけに事態は変わる。まるで雨がこれまでを洗い流して、リスタートを促しているかのようだ。犯人の要望に乗った主人公は、判決が下されて裁判が終了した日に、初めて犯人と直接握手を交わす。この二人が直接触れ合った瞬間に、主人公は彼の意図を理解したのかもしれない。
裁判を終えて最初の面会で、いつもは単刀直入に裁判の話を始めていた主人公が世間話を始める。目をしかめるほど面会室に光が溢れているのも何か象徴的だ。二人を隔てるアクリル板に主人公の顔が反射して、二人の顔が重なる。今や二人は左右対称ではなく、同じ場所から同じものを見ている。
映画は、似た者同士の主人公と犯人の関係を描くだけでなく、そこに日本の司法の欺瞞も示している。裁判官・検察・弁護士と、同じ司法という船に乗る人たちが、正しい針路を取るよりも、難破しない事だけを考えて目的地も分からずにただ漂っている。
映画の中で「裁く」「裁かない」という言葉が頻出するので、途中でゲシュタルト崩壊して「さばく?」って何だっけ?みたいに若干なってしまった。それからこれは本当に全く関係ないが、二人が面会室で顔を近づけて話をする白熱のシーンは、「ソーシャルディスタンス」とか「密」というワードが頭に浮かんできて、ちょっと困った。
スタッフ/キャスト
監督/脚本/原案/編集
出演 福山雅治
広瀬すず/斉藤由貴/吉田鋼太郎/満島真之介/松岡依都美/市川実日子/橋爪功
音楽 ルドヴィコ・エイナウディ