★★★★☆
あらすじ
戦争で勲章をもらい、今は医師として働き、美しい妻、両親と共に暮らす男は、ある日、自分そっくりの男に襲われる。
感想
登場人物たちに眉毛がなく、女性は変な髪型をしている。物語の舞台となる随所に洋風を取り入れた日本家屋の立派な美術と相まって、独特の世界観が形成されている。作り込まれた映像世界にまず惹き込まれる。
そしてこの世界観を決定づけているのは、主演の本木雅弘の美しさだ。映画に漂う奇妙さや不気味さを、この男前がすべて回収して「映像美」に変換している。他の凡庸な役者ではこんな風に映画を引き締めることは出来なかっただろう。彼はその容姿だけでなく、一人二役で様々な表情を見せ、迫真の演技で映画を盛り上げている。
主人公が家族と暮らす家で次々と摩訶不思議な出来事が起き、やがて彼の前に彼そっくりの男が現れる。何か事件が起きた時の揺れまくるカメラワークが良かった。ベタではあるが見ているだけで不安に襲われる。それに至るまでの何かが起こりそうな、ザワザワとした空気を醸成する演出も見事だった。
物語が進むにつれて、記憶喪失で昔のことをまったく覚えていなかった主人公の妻の過去や、主人公そっくりな男の素性も明らかになっていく。違う環境で育った性格の違う二人の男が、立場を入れ替えたら性格までも入れ替わっていくのが面白い。主人公の妻が言っていたように、一つの体に二人の男の精神が入ってしまったようなラストは、良かったのだか悪かったのだか判断し兼ねてなんとも言えない気持ちにさせられた。
正直なところ、セリフがよく聞き取れないシーンも多く、細かい部分ではよく分からないところも多かった。なぜ主人公そっくりな男が貧民窟を追放されたのか、どうやって主人公が井戸から脱出できたかなどは不明だ。ただそれが気にならなくなるくらい、作り込まれた奇妙な世界観に浸れた満足感があった。余韻も悪くなく、堪能できた。
スタッフ/キャスト
監督/脚本/編集 塚本晋也
出演 本木雅弘/りょう/藤村志保/筒井康隆/石橋蓮司/麿赤兒/竹中直人/田口トモロヲ/村上淳/内田春菊/広岡由里子/矢島健一/武野功雄
音楽 石川忠
撮影 森下彰生