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「故郷/阿Q正伝」 2009

故郷/阿Q正伝 (光文社古典新訳文庫)

★★★☆☆

 

あらすじ

 20年ぶりに故郷に戻り、少年時代のヒーローだった幼馴染と再会する「故郷」など、魯迅の代表的な作品を収めた作品集。

 

感想

 魯迅の主要な作品が並ぶ作品集だ。だがいまいちピンと来ない作品もいくつかあった。ただ、激動の時代の中国で、著者は人々が普段は見せない一面を何度となく見てきたのだろうと想像してしまうような内容のものが多かった。

 

 そんな中で心に残ったのは、著者の代表作でもある「阿Q正伝」だ。皆に馬鹿にされながらも、誰かを見下したり、自分は相手に勝っていると思い込むことで、自尊心を保つ男・阿Qが主人公だ。彼はそうやって生きているのだが、実際は下に見ている相手からも軽視されているし、精神的に勝っているつもりの相手に普通に虐げられている。それでも強がって、ありえない一発逆転の機会が訪れるのを待っているのが物悲しい。

 

 

 阿Qの姿は、ネットで見かける一部の人たちのことを思い起こさせる。匿名で弱者を叩き、誰かに歩調を合わせて有名人を誹謗することで自分が偉くなったかのようような気分を味わっている。そして、自分は不幸でないのだと必死に思い込もうとしている。

 

 いつの時代もこういう人たちはいるし、誰の心の中にもこういう一面はあるのだろう。だが虐げられ、報われない世の中であればあるほど、こういった人たちは増えるような気がする。どんなに抵抗しても無駄ならば、あきらめて現実から目を背け、都合よく言い訳しながら、無気力にやり過ごそうとするのは仕方がないことなのかもしれない。いわゆる「学習性無力感」という現象だ。

 

 阿Qは悲しい末路を辿るが、強がっていたけど振り返れば恵まれない人生だったなと最後に気付くのと、最後まで俺は全然不幸じゃない、これは仕方がないことだと自分に言い聞かせながら死ぬのとでは、どちらが良いのだろうかと考えてしまった。どちらにしても悲しいのには違いがないが。

 

 現代版「阿Q正伝」も読んでみたい気がしたが、きっと自分が知らないだけで既に誰かが書いているのだろう。それにいくらでもあるような気もする。

 

 

著者

魯迅

 

阿Q正伝 - Wikipedia

 

 

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