★★★★☆
あらすじ
太平洋単独無寄港横断に成功した堀江謙一のベストセラーとなった手記を映画化。
感想
タイトル通り、太平洋をひとりヨットで進む男の物語。とてつもなく地味で動きのない映画になりそうだが、ちゃんと見られる面白い映画に仕上げているのがすごい。
準備の様子や家族との会話などの回想シーンもあるにはあるが、ほとんどは主演の石原裕次郎が一人ヨットで過ごす様子が描かれる。一人なので独白がメインになるが、それが関西弁なのが独特の味わいになっていて効果的。ステレオタイプな関西人の喰えない感じが、彼のへこたれなさやふてぶてしさを表しているようにも思える。それを見事に演じる石原裕次郎が魅力的だ。
観ていると、主人公がパスポートも持たずに法を犯して出港したことや、缶詰の空き缶などのごみを海に捨てるのがめちゃくちゃ気になった。今やったら相当叩かれそうだが、当時はおおらかだったということか。人々の意識がアップデートされているということでもある。
主人公が船内に持ち込んだ荷物も色々と紹介されているが、飲用水はただビニール袋に入れただけ、というのは驚いた。すごい不安な感じがするがそれしかなかったから仕方がないのか。今は目の敵にされがちだが、ペットボトルは偉大だなと思ってしまった。水を買う習慣が出来ていたら、当時でも缶入りの水は販売されていたのかもしれないが。
劇的というよりは淡々とした感じで、ヨットでの出来事が描かれていく。それでもとても人間的で生き生きとして見えた主人公が、目的を達成してアメリカに到着したあたりから、急に無口で大人しくなってしまったのが印象的。まるで楽しい夢から覚めてしまったかのようだ。
観ている感じだと主人公は大変そうな事が多くて、本人も楽しい事なんてないと言っているくせに、それでもそんなことをやりたいと思うわけだから人間は不思議だ。モデルとなっている堀江謙一はその後もヨットで何度も出かけているし、登山やマラソンなんかも同じだ。そしてそれをなんか分かるわ、と思ってしまっている自分がいる。
スタッフ/キャスト
監督 市川崑
脚本 和田夏十
原作 太平洋ひとりぼっち
出演 石原裕次郎/浅丘ルリ子/田中絹代/芦屋雁之助/ハナ肇
音楽 芥川也寸志/武満徹