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「THE CATALYST 一瞬で人の心が変わる伝え方の技術」 2021

THE CATALYST 一瞬で人の心が変わる伝え方の技術

★★★★☆

 

内容

 力ずくではなく、自らが触媒(カタリスト)となることで相手の心に変化をもたらす方法を紹介する。

 

感想

  説得されていると感じると、人は自然と反発したくなるものだ。このような人間の特性は、人の心を変えよう、説得しようとする働きかけを困難なものにする。本書では直接相手に働きかけて脅したりすかしたりするのではなく、相手が自ら変化しようと決意するのを手助けする事で相手の考えや行動を変えるテクニックが紹介される。このテクニックは、化学の世界で使われる「カタリスト(触媒)」の働きとよく似ている。

触媒 - Wikipedia

 

 そもそも化学用語の「カタリスト」とは何か、という説明も当然あり、言葉自体は知っているが、どんなことなのかはいまいちよく分かっていなかった自分には、まずそれが知れただけでもこの本を読んだかいがあった。なんとなく両者の背中を押すことで化学反応の手助けをしているのだろうと想像していたのだが、それよりもむしろ両者の間の邪魔な障害物を取り除くことで、出会いやすく結びつきやすくしていると言った方が正しいようだ。

 

 

 人間には、命令されたら拒みたくなるという性質の他にも、良いか悪いか分からないものは敬遠してしまうとか、あまりに自分の考えとかけ離れたものには拒絶反応を示してしまうとか、変化を拒む性質はいくつかあり、それらにはどのような対応をすればいいのかが一つ一つ具体的に紹介されていく。そのうちの一つ、自分が持っているモノの価値を高く見積もり、なかなか手放したがらないという「保有効果」の説明の中で、例として挙げられていた、なかなか買い換えようとしないスマホの話は身に覚えがありすぎて苦笑してしまった。

 

 学校のカリキュラムを変えるときは「基本に立ち返る」という表現が使われる。組織で新しい方針を採用するときは「原点に返る」という表現が使われる。アイデアや方針、計画の新しさを訴えるのではなく、かつての姿に戻るという側面を強調するのだ。

p145

 

 この保有効果を利用したテクニックとして紹介されていた上記内容。確かに「新しいことを始めよう」と言われると身構えてしまうが、「失ったものを取り返そう」と言われれば元に戻るだけだから別にいいかなという気になってしまうからなんだか不思議だ。成功した実例として、アメリカ前大統領の「Make America great again」というスローガンが紹介されていたが、考えてみれば日本の前総理の「日本を、取り戻す。」もいい線をいっていたのだなと今さらながら気が付いた。これは確かにある種の人々の心の琴線に触れていたような気がする。これを参考に次の選挙のコピーを考えるなら「国民のための政府を取り戻そう!」みたいなのが効果ありそうだ。

 

 本章で紹介される内容は、これまで行動経済学や心理学の本などで読んだことのあるものが多かったのだが、人々の考えや行動を変えるにはどうしたらいいのか?という一つのテーマで分かりやすくまとめられているのが良い。今まではそういうのがあるのだなと思うだけだったが、本書ではそれをどのように活用すればいいのかがよく分かり、とても「使える」本となっている。さらには巻末には本書の概要がまとめられており、カタリストとして取り除くべき障害物は何かを見極めるチェックリストもついている。実際に人々に変化を促す必要に迫られた時には、この本を再び手に取れば何らかのヒントが得られそうだ。

 

著者

ジョーナ・バーガー

 

 

 

登場する作品

ブラック・スワン[上]―不確実性とリスクの本質

イノベーションの普及

 

 

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