★★★★☆
内容
なかなか変われない個人や組織を変えられるようにするためのフレームワーク。
感想
この本のオリジナルではないが、まず本書の中で使われている「象」と「象使い」の比喩が分かりやすい。
私たちの感情は「象」であり、理性は「象使い」だと述べている。象にまたがって手綱をつかむ象使いは、一見するとリーダーに見える。しかし、象使いの制御は不安定だ。象使いは象と比べればはるかに小さいからだ。体重六トンの象と象使いが進む方向でもめれば、負けるのは象使いだ。象使いにはまったく勝ち目がないのだ。
p14
「ファスト&スロー」でも取り上げられているこの二つの側面。たしかにちょっとでも理性がゆるめば、感情が暴走してしまうイメージが簡単に思い浮かぶ。
変化を起こすために、まずは「象使い」が正しく目指す方向を理解していなければいけない。漠然とこう出来たらいいなぁ、ではなく、明確なビジョン。そのためにどのような具体的な行動が必要かを考える必要がある。
このセクションで、なるほどなと思ったのは、「ブライト・スポット」を探す、ということ。何かに取り組んでうまくいかないと、駄目な箇所ばかりに気を取られて、モチベーションを下げがちだが、逆にそんな中でもうまくいっている部分に注目することで、解決の糸口が見えてくる。
そして象使いが目指す方向を正しく理解できたら、今度は象にやる気を起こさせる必要がある。やるべきことは分かっているのにグズグズしてしまいがちなのは、これが問題だ。なんとかやる気を出しても、目標達成の長い道程に途方に暮れしてまったり、なかなか成果が出ないことで、モチベーションが下がり、頓挫してしまうこともある。そうならないように、目標を細かく分けて達成感を得させる等、モチベーションを保つ工夫が必要になってくる。
象と象使いをうまく操るだけでなく、彼らが歩く道筋にも目を向ける必要がある。当然、険しい道より平坦な道のほうが歩きやすい。つまり、行動を何も考えずに実行できる習慣に変えてしまったり、仲間と共に行動するなど、環境を変えることでも変化を容易にすることができる。場合によっては、象や象使いが何をしなくても、環境を変えるだけで、変化を起こせることもあるというのは感心した。
本書の中では様々な実例を取り上げて、これらの変化を起こす方法を解説している。しかも、それなりの立場の人が法律や命令によって強権的に変えるのではなく、普通の人達による様々な取り組みや提案によって「変わった」実例が紹介されているのがいい。
変化が成功するときには、一定のパターンがあるということだ。変化に成功する人は、明確な方向性を持ち、十分なやる気を持ち、それを支える環境がある。言い方を変えれば、「象使い」、「象」、「道筋」が一丸となって変化を支えているのだ。
p342
なかなか変えられない自分も、そして変わらない組織も、実例を参考にして、このシンプルなフレームワークで検討すれば、何とかなるかもしれないと勇気づけてくれる内容になっている。
訳者のあとがきで、訳者本人の問題について、実際にこのフレームワークを用いて解決する方法を具体的に検討してみせてくれているのも、分かりやすくて良かった。
著者
チップ・ハース/ダン・ハース
訳 千葉敏生
スイッチ! ──「変われない」を変える方法 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
- 作者: チップハース,ダンハース,千葉敏生
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2016/10/06
- メディア: 文庫
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登場する作品
ー「象」と「象使い」
ビッグブルース―コンピュータ覇権をめぐるIBMvsマイクロソフト (アスキーブックス)
ダンナちゃん、よくできました!―シャチがジャンプを覚え、夫が家事を覚える魔法の水族館プログラム
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